本研究の目的は,リチウム電池の機能向上の鍵である電極/電解質界面について,ヘテロエピタキシャル薄膜電極とin situ表面散乱測定を駆使して構造変化を直接観測することにより,界面反応を解析し,大電流化と長寿命化を実現する電極表面構造を見出すことである.昨年度,表面構造を制御することで容量が大幅に向上することを見いだしたリチウム過剰系正極材料について,表面構造と出力特性,安定性の相関を調べた.(010)と(001)に配向したLi2RuO3モデル薄膜電極の電気化学特性を評価した結果,Li層が電解質に対して垂直でリチウム拡散に有利な(010)膜が比較的拡散に不利な(001)膜よりも出力特性が低いことが分かった.深さ分解表面回折測定,表面吸収分光測定から,(001)表面は充放電中に可逆的に相転移が起きるのに対し.(010)面では徐々に電気化学不活性相へと不可逆的に転移したことから,表面相転移が(010)面の界面反応速度を低下させていることを明らかにした.この(010)表面にLi3PO4を修飾し,空間電荷層形成により表面構造を変化させることで,表面での不可逆相転移は抑制されることを見出した.本研究により,電極最表面から数10nmにおける領域は容量,出力,安定性がバルク内とは異なり,表面構造制御によって特性の改善が可能であることを明らかにした.さらに,これらの現象は層状岩塩型,スピネル型,オリビン型いずれの電極材料でも観測され,特にナノサイズ電極では電極特性を決定づけることが分かった.
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