研究課題
次世代二次電池用の金属負極開発を目的に充電時に発生するデンドライトの抑制について取り組んだ。特に、多孔質電極を用いた際の孔内の液体構造がもたらす非線形性に着目して検討を進めた。シリコンをフッ化水素酸中で陽極酸化することで得られる多孔質シリコンをモデル電極として用いた。多孔質シリコンをプロピオール酸およびプロピオール酸メチルで修飾することで親水性および疎水性の多孔質シリコン電極を作製した。これらの電極を用いて金属電析を行うと、疎水性多孔質シリコンのときに金属電析が細孔内で著しく促進されることを見出した。統計力学を用いた理論解析により、細孔の孔壁が疎水性の場合に孔壁近傍の金属イオン濃度がバルクの溶液に比べて著しく上昇することを明らかにした。また、細孔径が数ナノメートルと非常に小さい場合に疎水性孔壁近傍に形成される金属イオンの水和構造がオーバーラップし、細孔内が金属イオン濃度の極めて高い第2相で満たされる相転移現象が発現することが分かった。これは、細孔内の電気化学反応が、孔壁と溶媒および溶質の適切な組み合わせによって促進されうることを示したといえる。実際に電極として使用可能な例として亜鉛のデンドライト抑制に取り組んだ。上述の検討と同様に孔径が数ナノメートルの多孔質シリコンをモデル電極として用いた。亜鉛板とシリコン板では亜鉛の電析挙動に大きな差は確認できなかった。ところが多孔質シリコンを電極とした場合、拡散律速の限界電流以上の電流密度であっても高い電流効率を維持したまま電析が進行することが分かった。その結果、平板電極に比べて多孔質シリコン電極を用いた場合にデンドライト成長が抑制されることが示された。これらの結果も、ナノ細孔内の液体構造を考慮することで解釈することができた。
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