研究課題/領域番号 |
23750253
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
廣垣 和正 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00512740)
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キーワード | 超臨界二酸化炭素 / 有機金属錯体 / ナイロン6繊維 / 導電性繊維 / 金属複合化 |
研究概要 |
超臨界二酸炭素を媒体に繊維へ有機金属錯体を注入した後,熱的にあるいは水素と接触させて還元することで,繊維内部で錯体から遊離した金属が析出する.これにより繊維内部に金属を複合化して繊維に導電性を付与する技術の確立とその複合化機構の解明を目的とし,本年度はナイロン6繊維に対して,錯体の注入・分解の工程が繊維内の金属分布および導電性に及ぼす影響を調べ,繊維の導電性の摩擦に対する耐久性を評価した. 金属を複合化した布帛の体積抵抗率は繊維表面の金属Pd濃度の増加に伴い低下し,Pdが9.9 atomic%のときに407Ω・cmであった.この繊維には,表面にnmオーダーの大きさの粒子が堆積した厚み約200 nmの層状構造が観察され,その近傍にPd元素が高濃度に分布した.繊維表面の錯体の還元率は65.6%であり,繊維の最表面には窒素が検出されなかったが,表面から内部にかけて金属Pdに加えナイロン繊維由来の窒素が検出された.層状構造は繊維に注入された錯体と錯体が分解して析出したPd金属粒子の堆積層である.繊維に錯体を注入した後,水素に接触させなくても,繊維表面の錯体の還元率は51.8%であった.繊維に錯体を注入する際に錯体が熱還元し,繊維内に析出した金属Pdの触媒作用により錯体の還元が促進され,繊維表面近傍で錯体の注入と注入された錯体の分解が繰り返し進められる.その結果,繊維表面の層状構造は形成され金属Pdが表面に偏析し,繊維の導電性を高めると提案した.銅めっき繊維の体積抵抗率は,摩擦前に1.29×10^2(2乗)Ω・cmであったものが,1000回の摩擦後には1.00×10^11(11乗)Ω・cmまで高くなったが,金属を複合化した繊維は摩擦後も10^2(2乗)Ω・cmオーダーと導電性を保った.金属を複合化した繊維は摩擦後,表面層の摩耗が見られたが,導電性の低下を抑制できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繊維内部に金属を複合化して繊維に摩擦耐久性のある導電性を付与する技術の確立とその機構の解明を目的とし,本年度はナイロン6繊維に対して超臨界二酸化炭素媒体中で,錯体の注入・還元の工程が繊維内の金属の分布および,導電性に及ぼす影響を調べ,導電性の摩擦に対する耐久性を評価した. 繊維への金属複合化および,導電性付与の機構として,繊維に錯体を注入する際に錯体が熱分解し,繊維内に析出した金属Pdの触媒作用により錯体の分解が促進され,繊維表面近傍で錯体の注入と注入された錯体の分解が繰り返し進められる.その結果として,繊維表面に金属Pd粒子が堆積した層状構造が形成され,金属Pdが高濃度に偏析するため繊維に導電性が付与されることを提案できた. 金属を複合化した繊維は1000回の摩擦後も10^2(2乗)Ω・cmオーダーと導電性を保った.金属を複合化した繊維は摩擦後,表面層の摩耗が見られたが,導電性の低下を抑制でき,摩擦堅牢度の高い導電性繊維を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度はナイロン6繊維に対して超臨界二酸化炭素媒体中で,錯体の注入・還元の工程が繊維内の金属の分布および,導電性に及ぼす影響を調べ,繊維への金属複合化および,導電性付与の機構を提案した.繊維の導電性を高めるには繊維表面近傍へ金属を偏析させ,表面の金属量を高めることが有効であり,二種類の金属錯体を混合して用いることで,それが可能であることを見出した.このことから,次年度は繊維への金属錯体の吸着および,拡散,分解についてより詳細に調査し,繊維内の金属の分布を任意に制御できる手法を確立することで繊維表面の金属化率を高め,繊維により高い導電性を付与することを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は,H24年度に引き続き進める,超臨界二酸化炭素媒体中での繊維内への有機金属錯体の吸着および拡散,還元による金属化挙動の解明および,さらなる導電性の向上に必要な実験消耗品(繊維,有機金属錯体,高圧装置消耗品など)購入費および,分析器使用料(透過型電子顕微鏡,走査型電子顕微鏡,X線高電子分光分析装置,誘導結合プラズマ発光分析装置など)に使用する.
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