超臨界二酸炭素を媒体に繊維へ有機金属錯体を注入した後,熱的にあるいは水素と接触させて還元することで,繊維内部で錯体から遊離した金属が析出する.これにより繊維内部に金属を複合して繊維に導電性を付与する技術の確立とその機構解明を目的とし,錯体の注入・分解の工程が繊維内の金属分布および導電性に及ぼす影響を調べ,導電性の摩擦に対する耐久性を評価した.ナイロン6繊維に対し,酢酸パラジウムおよび,パラジウムアセチルアセトナートを重量比1:1で混合して用いると効率よく金属を複合できた.金属複合繊維の体積抵抗率は表面の金属濃度の増加に伴い低下し,Pdが9.9 atomic%のとき407Ω・cmであった.この繊維は表面にnmオーダーの大きさの金属粒子が堆積した厚み約200 nmの層状構造を有した.表面から内部にかけてPdに加えナイロン由来の窒素が検出され,金属堆積層の繊維への複合が示唆された.錯体が繊維に注入されるとき熱還元し,繊維内に析出した金属Pdの触媒作用により錯体の還元が促進される.繊維表面近傍で錯体の注入と還元が繰り返し進められ金属粒子が表面近傍に偏析し,金属堆積層が形成されたと考えた.銅めっき繊維の布は,体積抵抗率が摩擦前10の2乗Ω・cmであったが,1000往復の摩擦後10の11乗Ω・cmまで高くなった.金属複合繊維の布は,摩擦前後で10の2乗Ω・cmオーダーの抵抗率を保った.金属複合繊維は摩擦後,表面層の摩耗が見られたが,導電性の低下を抑制でき,高い摩擦耐久性を示した. 最終年度は,繊維への錯体の注入・分解速度のバランスおよび,錯体と高分子との親和性の差による注入量の変化を利用し,繊維の金属複合構造を制御して表面は導電しないが内部に導電性を持つ繊維(繊維1本が絶縁被覆電線のように働く)の調製を試みた.繊維表面の金属濃度を低くし,内部の金属濃度を高くできたが,導電性を評価できるまでには至らなかった.
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