研究課題/領域番号 |
23750255
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辻本 敬 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90425041)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | バイオマスプラスチック / ポリヒドロキシアルカネート / 結晶核剤 / 可塑剤 |
研究概要 |
近年、環境問題に対する関心が高まるにつれ、高分子分野においても環境調和型高分子材料の開発が切望されている。しかし、植物資源から合成されるバイオマスプラスチックの普及には未だ解決しなければならない問題が数多くある。本研究では植物原料からなる分岐状バイオポリマーを合成し、菌産生プラスチックであるポリヒドロキシアルカネート(PHA)の普及の課題となっている迅速、かつ高効率な結晶化に対応できる添加剤に応用することを目的としている。 分岐状バイオポリマーは開始剤として主に水酸基を有するヒマシ油を用いて合成した。本合成においてはヒマシ油中に存在する二級水酸基が開始点として重合反応が進行し、ヒマシ油と乳酸の混合比を変化させることで生成する分岐状バイオポリマーの分子量や熱物性の制御が可能であった。 上記で合成した分岐状ポリマーをPHAの一種であるPHBVに添加したところ、PHBV単独や直鎖状ポリ乳酸を添加した場合には10℃/minの冷却条件では結晶化せず、5wt%の末端水酸基型分岐状ポリ乳酸を添加した場合のみ約60℃に大きな発熱ピークが見られ、結晶化が進行していることがわかった。本結果は分岐状ポリマーがPHBVの結晶化を効果的に促進したことを示唆するものである。また、分岐状ポリマーによるPHBVの結晶化促進作用は分岐状ポリマーの分子量に依存し、ヒマシ油と乳酸のモル比が1:100の分岐状ポリマーを添加した系において効果が最大となった。また、偏光顕微鏡観察を行った結果、分岐状ポリマーの添加によりPHBVの結晶径が著しく減少しており、分岐状ポリマーが一次核の形成を促進していることが確認された。更にポリ乳酸に分岐状ポリマーを添加した場合においてはポリ乳酸の可塑剤として作用し、分岐状ポリマーがバイオプラスチック用添加剤として大きな可能性を秘めていることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
菌産生ポリエステルの結晶核剤として分岐状バイオポリマーが有効であることが見出されており、当初の計画通り研究が進行しているため。
|
今後の研究の推進方策 |
分岐状バイオポリマーについて、高速冷却時の結晶化挙動を評価し、高性能結晶核剤を開発する。具体的な数値目標としては溶融状態から100℃/分で冷却した場合に3分以内の固化(結晶化)を目指す。また、分岐状バイオポリマーを添加したPHAサンプルのテストピースを作製し、耐熱性、動的粘弾性、引っ張り強度、熱膨張率、曲げ強度(荷重たわみ温度)などの基礎物性を測定する。物性測定の結果と機能との相関を明らかにし、分岐状バイオポリマー合成にフィードバックする。同時に分岐状バイオポリマーの添加による結晶化促進メカニズムを調べる。最適化した分岐状バイオポリマーを用いてPHAの等温結晶化測定を行い、より詳細な結晶化挙動を解析する。また、偏光顕微鏡による微視的観察を行い、結晶核形成、及び結晶成長挙動を調べる。更にX線測定を行うことで結晶化度、結晶構造の解析を行う。これらの結果を総合的に考察することで分岐状バイオポリマーの結晶核剤としての優れた性能を分子レベルで明らかにする。一般にPHAはポリ乳酸とは非相溶と言われている。そのため、多分岐化、及び末端修飾によりPHAへの分散性が向上し、更に冷却時初期の相分離により分岐状ポリマーが結晶核として作用することでPHAの結晶化を促進すると推定している。分岐鎖構造の異なる分岐状バイオポリマー(PHAやポリカプロラクトン)を添加した場合と比較することで機能や物性に与える影響についても評価する。上記の測定によりこの仮説を検証し、メカニズム解明、更にメカニズムを基にする結晶核剤の分子設計につなげる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初予定通りの計画を進めていく。 消耗品費としては分岐状バイオポリマーを合成するための有機試薬類、機能評価用のポリマー類をはじめとする試薬・溶媒を中心に、サンプル合成や評価に使う器具、分析用カラム類を含む。他に研究調査、成果発表のための旅費を計上している。
|