微生物産生ポリエステルであるポリヒドロキシアルカン酸(PHA)は微生物の体内でエネルギー貯蔵物質として生産され、優れた生分解性や生体適合性を有し様々な分野での利用が期待されている。3-ヒドロキシ酪酸のホモポリマーであるPHBは高結晶性で熱的性質に優れるが結晶サイズが大きく低靱性が問題となっている。3-ヒドロキシ吉草酸との共重合体であるPHBVでは靱性は改善されるものの結晶化に長時間を要しその解決が求められている。本研究ではヒマシ油をコアとする分岐状ポリ乳酸をPHBVに添加し結晶化に与える影響を調べた。 分岐状ポリ乳酸はヒマシ油の水酸基を開始点として利用し、ラクチドの開環重合により合成した。本ポリマーはヒマシ油とラクチドの仕込み比により分子量制御が可能であった。PHBVに分岐状ポリ乳酸を少量添加し溶融状態から毎分10℃で冷却したところ、PHBV単独では結晶化しなかったが、分岐状ポリ乳酸を添加した系では90℃付近にPHBVの結晶化に由来するピークが観察され、結晶化が促進されていることがわかった。分岐状ポリ乳酸の分子量(分岐鎖長)が与える影響について調べた結果、冷却時の結晶化温度は分岐状ポリ乳酸の分子量に依存した。等温結晶化測定により求めた半結晶化時間はいずれの温度においても分岐状ポリ乳酸を添加した系で短縮した。また、偏光顕微鏡観察を行ったところPHBV単独では直径約300μmの球晶が見られたが、分岐状ポリ乳酸を添加ことでPHBV結晶が微細化することがわかった。これは分岐状ポリ乳酸がPHBの結晶核剤として作用していることを示している。 以上の結果より、ヒマシ油をコアとする分岐状ポリ乳酸はPHBVに対して優れた増核効果を示し、PHA用結晶核剤としての利用が可能であることが明らかとなった。また、セルロースを添加した場合の結晶化挙動についても調査を行った。
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