研究課題/領域番号 |
23750256
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
伊福 伸介 鳥取大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70402980)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | キチンナノファイバー / 金属ナノ粒子 |
研究概要 |
(1)ポリアクリル酸のグラフト:キチンナノファイバーの表面にポリアクリル酸をグラフトすることに成功した。キチンへのポリアクリル酸の導入は過硫酸カリウムを開始剤としたフリーラジカル重合によって達成できた。アクリル酸の量を変えることによってグラフトされるポリアクリル酸の重合度を制御できた。グラフト反応後においてもキチンナノファイバーの特徴的な形状および伸びきり鎖の結晶構造が保持されていた。(2)金属イオンの吸着:アクリル酸をグラフトしたキチンナノファイバーの表面を足場とし銀イオンを吸着させた。ナノファイバーとして取扱いの簡便なシート(不織布)の状態で行い、銀イオンには硝酸銀を用いた。ポリアクリル酸のカルボキシルアニオンと銀カチオンのイオン的な相互作用を利用することで、効率的に銀イオンを吸着させることが可能であった。(3)金属ナノ粒子の作成:還元反応を施してキチンナノファイバーの表面に吸着させた銀イオンを銀粒子に変換した。還元方法として紫外線照射による還元をおこなった。還元反応によってキチンナノファイバーは茶褐色に変色した。これは銀ナノ粒子に特徴的な表面プラズモン吸収によるものであり、すなわち、キチンナノファイバー上の銀ナノ粒子の存在が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画は順調に達成できている。まず、過硫酸カリウムを開始剤としたフリーラジカル重合によってキチンナノファイバーの表面にポリアクリル酸をグラフトすることに成功した。得られたアクリル酸グラフトキチンナノファイバーはその詳細な評価を完了している。次いで、アクリル酸をグラフトしたキチンナノファイバーの表面を足場とし銀イオンを吸着させた。キチンナノファイバーの表面に高密度に集積したポリアクリル酸のカルボキシルアニオンと銀カチオンのイオン的な相互作用を利用することで、効率的に銀イオンを吸着させることが可能であった。そして、紫外線照射によってキチンナノファイバーの表面に吸着させた銀イオンを還元し銀粒子に変換することに成功した。得られた試料は銀ナノ粒子に特徴的な表面プラズモン吸収を示した。また、一方で複雑な化学反応を必要としない簡便なキチンナノファイバー上に担時した銀や金ナノ粒子の調製法も見出しており、得られた物質の詳細な評価を進めている。また、有力な原料となり得るキノコ類からキチンナノファイバーの製造や大量生産可能な解繊装置を用いたキチンナノファイバーの製造方法も本研究を進める課程で見出しており、当初の計画以上に研究が進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)キャラクタリゼーション:金属ナノ粒子を固定化したキチンナノファイバーについて、現有する設備を駆使して多角的にキャラクタリゼーションを行い、データを集積する。具体的に下記の評価を検討している。1)形状の観察、アスペクト比(走査型電子顕微鏡(FE-SEM)、原子間力顕微鏡(AFM))2)金属ナノ粒子のサイズ、粒径分布(小角X線散乱装置)3)金属ナノ粒子の元素分析(ICP発光分光分析装置、エネルギー分散型X線分光装置(EDX))4)キチンナノファイバーおよび金属ナノ粒子の結晶構造、結晶化度(広角X線散乱装置)5)キチンナノファイバーの化学構造(FTIR-ATR)6)ポリアクリル酸の重合度(GPCおよび元素分析装置)7)試料の比表面積(窒素吸着測定装置)8)破壊強度、弾性率、破壊ひずみ(強度試験機)9)相転移挙動、熱分解温度、熱膨張性(DSC、TGA、TMA)10)光学特性、表面プラズモン吸収(紫外-可視分光光度計)(2)金属ナノ粒子の機能性評価:キチンナノファイバーの表面に配列した種々の金属ナノ粒子の機能を評価し、実用化に向けた有望な用途を探索する。具体的には触媒、電気・電子材料、医療用材料としての展開を想定しており、それらの機能の評価を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
キチンナノファイバーの調製およびそのグラフト重合反応、そして金属ナノ粒子を担時するために必要な薬品類および器具類を計画的に購入していく。また、得られる金属ナノ粒子を担時したキチンナノファイバーをキャラクタリゼーションするために必要な消耗品類を購入する。キチンナノファイバーの製造には石臼式摩砕機と呼ばれる解繊機が必須であるが、この装置に内蔵される砥石は摩耗するため、定期的な更新が必要であり砥石を購入する。本研究の成果について、国内外の研究者に広くアピールし、専門分野において世界をリードして行きたい。よって、研究費の一部を国内外の学会での成果発表のための出張費として利用したい。当該研究費が生じた状況本研究を進める課程で、1)新たな原料からのキチンナノファイバーの製造および、2)新たな解繊装置を用いたキチンナノファイバーの製造技術を見出すことが出来た。これらの検討を新たに進めていたため、当初の計画(キチンナノファイバーのグラフト化反応の検討)に若干の遅れが生じた。遅れた分については次年度に研究する予定であり、予算の一部を次年度に繰り越すことにした。繰り越した予算については薬品の購入に充当する。
|