研究課題/領域番号 |
23750257
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
平井 智康 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (60585917)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ハイパーブランチポリマー / 表面機能化 / 表面濃縮 / ポリマーブレンド |
研究概要 |
材料の高機能化に伴い、高分子表面および界面の効率的な改質法が望まれている。表面のエネルギーはエントロピーとエンタルピーのバランスによって決定される。多分岐高分子は同程度の分子量からなる線状高分子と比較して、末端数密度が高く、空間的な広がりが小さい。そのため、線状高分子とのブレンド膜において、エントロピー的な寄与に基づきその表面に選択的に濃縮する。しかしながら、これまでに多分岐高分子の分子間相互作用が表面濃縮挙動に与える影響は明らかにされていない。そこで平成23年度は、一次構造が精密に制御された側鎖長、末端基がそれぞれ異なる4種類のハイパーブランチポリアミド(HBPA)を用い、分子間相互作用が表面濃縮挙動に与える影響を評価した。マトリクス高分子としてポリスチレン(PS)を用い、HBPAを5w%添加することにより、ブレンド膜の調製を行った。ブレンド膜の表面組成解析はX線光電子分光(XPS)測定に基づき評価した。まず、側鎖基の鎖長が表面濃縮に与える影響について検討を行った。XPS測定に基づく評価から、HBPAの表面濃縮は側鎖基の長さが短くなるに連れて抑制されることが明らかになった。側鎖基のアルキル基の鎖長の増加に伴い、HBPA分子間に働く分子間相互作用が減少する。これに伴い、HBPAの見かけの分子量が向上し、表面濃縮が抑制されることが明らかになった。続いて末端基が表面濃縮挙動に与える影響について検討を行った。末端基としてメチルエステル、エチルエステルを有するHBPAをそれぞれ用い、ブレンド膜を調製し、XPSに基づく表面組成解析を行った。その結果、立体障害の小さいメチルエステルを含有するHBPAの表面濃縮はエチルエステルを含有するHBPAと比較して抑制されることが明らかとなった。本研究期間を通じて、分岐部位、末端基いずれも表面濃縮挙動に重要な役割を担っていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究目的および達成課題として、1. 極性官能基を有するハイパーブランチポリマー(HBP)の表面濃縮を達成し、2. 物理化学的に表面濃縮挙動を理解することを掲げている。極性官能基として、アミド結合に注目し、研究活動を行った。上述したように、アミド結合の側鎖基に長鎖アルキル基を導入することにより、HBPAによる表面濃縮が成し遂げられることを明らかにした。また、物理化学的な考察から、HBPA中に導入された側鎖アルキル基の鎖長が短い程、HBPAの見かけの分子量が増加し、エントロピー的な寄与が減少することにより表面濃縮が抑制されると結論した。この結果は、極性官能基を有する高分子であっても、分子設計を工夫することにより表面に濃縮することを示している。一般的にHBPの化学構造は極めて複雑であり、分子間相互作用の理解、更には分子間相互作用が表面濃縮に与える影響は物理化学的に言及されていない。本研究期間を通じて、極性基の一つであるアミド結合を含有するHBPAの表面濃縮を達成し、さらに物理化学的にこの現象に関する検討を行った。これらの観点から、研究はおおむね順調に進展していると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに、分子設計を工夫することにより、極性官能基が導入されたHBPであっても表面に選択的に濃縮できることを示した。しかしながら、ポリアミド系のHBPでは表面に更なる機能を付与することは不可能である。今後の研究展開として、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基などの機能性極性官能基の表面濃縮について検討を行う予定である。これらの機能性極性官能基は、縮合反応を利用することにより、さまざまな分子の導入を可能にする。これらの機能性官能基をHBPに導入し、表面濃縮させることにより、表面濃縮層での反応が可能となる。HBPは末端官能基数が線状高分子と比較して多いため、高表面占有率からなる表面形成が期待される。一方、昨年度は表面濃縮のみに注目して研究を行ってきたが、固体界面が表面濃縮挙動に与える影響についても評価すべき課題の一つである。極性官能基が多数導入されたHBPのブレンド膜を極性基板上に製膜した場合、表面濃縮が抑制されることが考えられる。また、膜厚も表面濃縮と密接な関係がある。これらを検討し、物理化学的に基板、膜厚が表面濃縮挙動に与える影響を評価していく。更に、この知見を発展させ、リソグラフィー技術との併用についても検討を行う。基板に高分子膜を調製し、電子線などを用いて描画を行い、基板上に親ー疎水性のコントラストを形成させる。この基板上にブレンド膜を製膜し、表面濃縮の微細領域制御に関しても検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、1. 機能性極性官能基含有HBPの合成、2. 表面濃縮評価および表面反応、3. 表面濃縮の微細領域制御を重点的に行う。表面濃縮により形成されたHBP表面の組成解析を行うために、設備備品として拡散反射ユニット(パーキンエルマー製)の購入を検討している。HBP合成、表面反応に関する試薬、溶媒、ガラス器具を申請書に従って購入する予定である。合成する高分子の数が多いため、試薬および溶媒を若干多めに計上した。ブレンド膜を評価するためには、シリコン基板、AFMカンチレバー等の購入が必要不可欠である。また、本研究において得られた結果を外部に積極的に発信していくために、学会活動への参加、論文投稿が必要である。これらの成果発表および論文の別刷費用を本年度は多めに申請している。
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