研究課題/領域番号 |
23750263
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
能田 洋平 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究員 (50455284)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | ゴム材料 / 中性子小角散乱法 / 核スピン偏極 / シリカ充填SBRゴム |
研究概要 |
本研究課題の目的は、低燃費タイヤゴム材料であるシリカ充填SBRゴムに対して、水素核スピン偏極状態下の偏極中性子小角散乱測定を行い、結果として得られる多様なコントラストを反映した散乱プロファイルを統合的に解析することで、従来は取得が困難であった試料中の各成分に由来する散乱を分離決定し、高精度な解析および構造決定を実現することである。そこで、初年度は第一段階として、シリカ充填SBRゴムに対して水素核スピン偏極が適用可能であることの実証実験を行った。これまでに各種の基礎的な高分子材料を対象に確立した手法に則り、予め試料へ電子スピン源であるTEMPOラジカル導入した上で、1.2 Kの低温、3.3 Tesla強磁場下で94GHzのマイクロ波照射を行った。シリカ充填SBRゴムでは、TEMPOラジカルの蒸気浸透に従来よりも長時間を要することが明らかになったものの、最終的には良好な水素核スピン偏極度(30%)を達成することに成功した。これは第二段階である偏極中性子小角散乱においてコントラスト変化を観測するのに十分な値である。一方で、試料のクライオスタットへの挿入の方式を改善した。試料のクライオスタットへの挿入の際に、試料セルをヘリウムガスで加圧し続けるという方式を採用することで、クライオスタット内への霜の混入を抑えることに成功した。これにより中性子小角散乱測定における不要なバックグラウンドが低減すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の最終目標は水素核スピン偏極を用いたコントラスト変調中性子小角散乱実験であるが、そのための第一のハードルが低燃費タイヤゴム材料の水素核スピン偏極度を十分に高い値まで引き上げることであった。ラジカル導入法の条件などの見直しを経て、最終的にはおよそ30%という水素核スピン偏極度を達成できた。これにより、水素を含むSBRゴム成分の中性子散乱長密度をコントロールでき、結果としてSBRゴムマトリックスとシリカ微粒子との間のコントラストに強弱をつけることが可能となった。一方、装置の改善として中性子小角散乱測定におけるバックグラウンドの低減を目的にヘリウム加圧方式の試料セルを導入した。これにより、信頼性の高い中性子小角散乱データ取得が可能となった。さらに試料中の各成分の原子組成比から中性子散乱長密度を算出しコントラスト変化は予測可能な状況にある。このように第二段階である中性子小角散乱実験およびその解析の準備は整っている。その結果には大いに期待が持てる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は水素核スピン偏極によりコントラストを変調させた状態での中性子小角散乱測定を実施し系統的な材料研究を展開する。水素核スピン偏極のためのTEMPOラジカル導入済みの試料はオフライン実験と同条件で作成したものを冷凍保存しており、これまでの経験から言ってオフライン実験における水素核スピン偏極度を問題なく再現すると考えられる。解析の際には、既に計算済みである試料中の各成分の中性子散乱長密度変化データを活用する。シリカ充填SBRゴムについてはこれまでにも中性子小角散乱測定の例があるが、本手法の独自性は水素核スピン偏極によるコントラスト変調を用いている点である。このコントラスト変調によってどのような新しい構造情報が得られるかという点が重要であり、この点に留意しつつ解析を遂行する。
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次年度の研究費の使用計画 |
水素核スピン偏極実験は極低温・強磁場にて実施する必要があり、試料および超電導マグネットを冷却するための冷媒として液体ヘリウムが必要不可欠である。また、クライオスタットをより安定的に取り扱い容易とするための各種配管部品の購入が必要である。さらに、系統的な材料研究を展開するためにはより多数の試料セルを使用する必要がありその購入も必要である。また偏極中性子に関わる国際会議における成果報告を予定しておりそのための旅費が必要である。
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