研究課題/領域番号 |
23760007
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
上田 真也 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60442729)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | Ruddlesden-Popper構造 / 単結晶育成 / 層状Co酸化物 |
研究概要 |
当初の計画では、本研究の推進にあたりマックスプランク研究所に3ヶ月間赴いて電気化学に関する技術の習得する予定であったが、受入れ研究者から定年間近であるという理由で断られた。そこで、他に本研究に適した受入れ先として国内外を見渡すと、固体材料の分野で最先端である研究施設としてフランスCaen大学のCRISMAT研究所やドイツKarlsruhe大学などが挙げられた。これらの研究所には伝手がなかったが受入れを承諾されたため、計画通り3ヶ月間CRISMAT研究所においてFlux溶融法および電気化学合成を研究した。 本研究では電気化学合成を新たに始めるにあたり、コバルト酸化物を最初のターゲットとした。コバルトは周期表の同列にある貴金属ロジウム (Rh)、イリジウム(Ir)よりも酸化しやすいことから一般的には貴金属には含まれないが、同じ電子配置を有することから本研究の対象であり、やや酸化しやすいことは最初の候補として大変適している。 結果、アルカリ金属炭酸塩を用いたFlux法により、Ruddlesden-Popper構造(以下RP構造)のCo酸化物Sr3Co2O7- dの単結晶育成に初めて成功した。これまでに高温超伝導を示す銅酸化物、巨大磁気抵抗効果を有するマンガン酸化物などはいずれもRP構造においてその機能を発現しているが、コバルト酸化物のRP構造Srn+1ConO3n+1についてはほとんど報告がなかった。それは合成に高圧を必要とし、さらに大気中で化学的に不安定であることが原因であったが、本研究では当初の目的通りFlux溶融法を利用して単結晶を育成できた。本研究ではさらに、RP構造のn = 3にあたるSr4Co3Cl2O7.5+ dの単結晶育成にも初めて成功した。当初これらの合成は日本で装置を購入してから行う計画であったが、フランスでの3ヶ月間に合成でき計画よりも進むことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに銅やニッケルのRP相は、還元によって本研究のターゲットであるT’相に構造相転移することが知られている。そのため本研究では、得られた単結晶Sr3Co2O7- d(以下RP2)をT’相にするために還元を行った。その結果、大気中で安定な単結晶となり化学的性質が変化したが、詳細な結晶構造については現在解析を進めている。大気中で安定となった理由は、還元によりコバルトが安定なCo2+/Co3+の混合価数となったためであり、還元処理によってこの物質に電子ドープされたことが示唆された。ただ、この物質は電子ドープでは電気伝導性は向上せず、逆に酸化処理によるホールドープにより金属となることがわかった。現在、酸化処理により金属となったSr3Co2O7-dがさらに超伝導となるかを系統的に酸素量を変えながら調べている。一方、RP相のn = 3にあたるSr4Co3Cl2O7.5+ d単結晶(以下RP3)についても、酸化処理によるホールドープが金属化に有効であることを見出した。 これまでに得られたコバルト酸化物のRP2相およびRP3相のホール濃度を大きく変えて電気抵抗率を調べたがまだ超伝導には至っていない。今後、より詳細にホール濃度を制御すれば超伝導が見出される可能性は十分にあるものの、従来の超伝導体に関する経験的な観点からは、超伝導が発現するキャリア濃度の領域が狭い場合には高い超伝導転移温度(Tc)をもつ超伝導となる可能性が高いとは言えない。本研究の目的は高いTcをもつ新しい超伝導体の探索であることから、今後さらなる物質探索を進める。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように最初の目的物質が、予定よりも早くフランスCRISMAT研究所において合成できたため、それらの物性測定をすぐに行う必要が生じた。そのため当初の計画とは異なり、溶融法および電気化学合成の装置を日本で購入するための研究費をまだ使用していない。今後は速やかに当初の計画通り合成装置の立上げを行う。これまでに得られた知見として、(1)溶融法および電気化学合成は本研究で目的とする相の合成に大変有効であることがわかった。その一方で、(2)酸化物等の溶融塩は坩堝を溶かすことがあるため、坩堝材から不純物混入の恐れのない坩堝が必要となることがわかった。また(3)目的以外の相が生成してしまった場合には、その相が不純物となり取り除くことが困難となる。そのため目的相を生成するため電流密度の調節、温度コントロールが大変重要である。場合によっては、出発原料を坩堝に投じる順序も生成相を左右する。 これらの知見をもとに、申請書において本年度の目標として掲げた物質の合成を行う。本年度の目標は、平面四配位構造を取りうる金属(Ni、Pd、Pt及びAg、Auなど)を用い、金属と酸素の共有結合を含む構造(主としてNd2CuO4構造と無限層構造)を合成することである。さらに、キャリア量制御によって超伝導の発現を狙う。
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次年度の研究費の使用計画 |
電気化学合成に用いるサイクリックボルタンメトリーが可能なポテンショスタットを購入する。これまでの知見から簡易ポテンショスタットで十分合成が可能であることがわかっており今年度に使用できる研究費で購入可能である。また合成に用いるマッフル炉を購入する。精密な温度コントロールには、小型の市販のマッフル炉が望ましく、値段も手ごろである。Pt電極や、坩堝等を購入する。上述のように、溶融塩に侵されない電極、および坩堝材からの不純物混入の恐れのない坩堝が必要となる。その他、溶融塩として用いる試薬、原料粉、理化学用品等を購入する。
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