本研究課題では、4H-SiC中のキャリアライフタイム制御技術を確立するため、再結合中心となる欠陥の同定を試みた。その手法として、過去に報告のある核磁気共鳴(EPR)信号のアニール温度依存性と、深い準位過渡応答(DLTS)測定およびマイクロ波光導電減衰(μ-PCD)測定結果の温度依存性との比較を行った。この手法により深い準位と欠陥構造との対応を明らかにし、それらが再結合中心として働くかを議論することができる。 実験は2 MeVのエネルギーで電子線照射を施したn型4H-SiC試料に対して実施した。ここで、DLTS測定のみならずphoto induced current transient spectroscopy (PICTS)測定も実施し、深い準位を観測した。μ-PCD測定の結果、キャリアライフタイムはアニール温度によって変化しないことがわかった。また、DLTSおよびPICTS測定から、主に2つの深い準位が観測された。それらの準位の信号強度にはアニール温度依存性が見られ、それを過去に報告されたEPR信号とを比較した。その結果、観測された深い準位は、C_{Si}V_{C}と1つまたは2つのV_{C}による複合欠陥、もしくはC_{Si}V_{C}によるものである可能性が明らかになった。 一方で、低エネルギー電子線照射を施したp型4H-SiC中の深い準位を観測し、その正孔捕獲断面積を得ている。これらの結果により、再結合中心となる準位が推定できている。従って、n型のみならずp型4H-SiC中でキャリアライフタイムを制限している深い準位についての情報が得られつつある。 以上の結果は、4H-SiCに対してどのような照射およびアニールを施せば、特定の深い準位を導入し、キャリアライフタイムを制御できるかという点について有用な情報を与えると考えられる。
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