研究課題/領域番号 |
23760023
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾澤 伸樹 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60437366)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 表面反応 / 量子分子動力学 / 高速化 / アニオン / 伝導プロセス |
研究概要 |
表面近傍におけるアニオンの伝導プロセスを高精度に解析するためには、アニオンの挙動に誘起される表面原子振動の効果も入れる必要があり大規模な計算モデルで行う必要がある。また、計算方法として分子動力学法が適当と考えられるが、第一原理計算に基づく分子動力学法は膨大な計算時間がかかるため、期間内にアニオン伝導プロセスの解析を行うことは困難である。そこで、高精度かつ大規模なアニオン伝導シミュレーションを行うために、東北大学久保研究室で開発済みのTight-Binding法に基づく量子分子動力学法プログラムに高速化及び大規模計算化処理を施し、計算時間の短縮化を行った。具体的には、量子分子動力学計算において計算負荷がかかるハミルトニアン行列の対角化を、従来用いていたQR法から分割統治法に変更して行った。ここで、Tight-Binding法におけるハミルトニアンの行列要素には零の部分が多く、零の行列要素を除いてより小さな固有値問題を解く分割統治法は有効である。その結果、従来のQR法による対角化の計算時間と比較すると、分割統治法を用いることによって約30分の1の計算時間の短縮に成功した。また、さらに計算時間を短縮するため、特に計算負荷がかかるハミルトニアン行列の対角化、Atomic bond population、原子間に働く力の計算部分について、12コアのマルチコアプロセスを用いた並列化によって高速化を行った。本手法の導入により、1000原子以上の大規模計算において1ステップあたり約3000秒かかっていたが、並列化によって30秒まで削減することに成功し、現状より100倍の高速計算を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属表面におけるアニオンの伝導プロセスの解析において、より高精度かつ大規模なシミュレーションを行うため、既存のTight-Binding量子分子動力学法プログラムに高速化処理を行った。従来の計算コードでは、最大300原子程度のモデルサイズしか扱えなかったが、本研究で実装した分割統治法及び並列化によって、100倍の高速計算を実現し、1000原子以上のモデルにおける大規模計算が可能になった。ただし、現在は1台の計算機内でマルチコアによる並列化を行っているが、今後は複数の計算機を使った大規模な並列化により、更なる計算速度の向上を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
第一原理計算及び昨年度に開発したTight-Binding量子分子動力学法を活用して、表面上から表面数層のサブ表面領域におけるアニオンの吸着及び拡散シミュレーションを行い、金属触媒表面近傍におけるアニオンの伝導プロセスを明らかにする。そのために、以下の研究課題を行う。(a)第一原理計算によるアニオンの吸着及び拡散プロセスの解析 金属触媒表面近傍におけるアニオンの拡散経路及び拡散障壁を評価するため、原子・分子と金属表面の相互作用であるポテンシャルエネルギーを、表面上から表面数層のサブ表面領域までアニオンの水素・酸素原子の位置を変えながら第一原理計算を用いて計算し、その位置座標の関数であるポテンシャルエネルギー超曲面(Potentail Energy Surface: PES)を構築する。そしてそのPESから原子・分子の吸着エネルギー、サブ表面領域における拡散経路及び拡散障壁を解析する。またその結果からアニオンの吸着・拡散過程における活性を評価し、その反応過程の起源を探る。扱う金属の対象としては、アルカリ形燃料電池によく用いられるPt、Niを取り扱う。(b)量子分子動力学法によるアニオン伝導シミュレーション アニオンの伝導プロセスを明らかにするため、Tight-Binding量子分子動力学法を活用して表面近傍におけるアニオンの拡散シミュレーションを行う。ここで、Tight-Binding量子分子動力学法は半経験的パラメータを用いた計算手法であるため、パラメータの決定だけで膨大な時間を費やす恐れがある。そこで、(a)で評価した吸着エネルギー及び拡散障壁を再現するように精度良く迅速にパラメータを決定し、アニオンの伝導プロセスのシミュレーションを行う。また、その結果から高い拡散速度を持つ伝導メカニズムを提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は高速化した量子分子動力学プログラムを活用して、アニオン伝導シミュレーションを行う。そこで、得られた結果を解析するため、データ解析用コンピュータの導入経費を計上した。また、蓄積された計算結果のデータを保存するハードディスク、研究データをまとめた資料及び解析結果を示す動画ファイルを保存するDVD-Rを消耗品として計上している。旅費等の明細には、研究成果の発表を行うための通常の学術活動費用及び打ち合わせのための旅費を計上した。また、謝金等の項目には本研究課題に必要な参考資料の複写費用を、資料提供・閲覧として計上している。そして、研究成果を毎年論文に公表するため、論文投稿料をその他の項目に計上している。 収支状況報告書において次年度使用額が発生しているが、東北大学では3月31日までに支払を完了した額を記載するように全学において統一しているため、実際は次年度使用額ではなく4月支払分が記載されている。そのため、23年度の予算は使い切っており、次年度に繰り越す予算は0円である。
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