グラファイト表面での分子およびラジカル種の吸着・散乱特性を明らかにすることをが本研究の目的である。この目的を遂行するため、(1)ラジカル種の発生機構の開発(2)グラファイト表面における超音速分子線の衝突散乱ダイナミクスの実験計測(3)ヘリウム原子線散乱法を用いたグラファイト表面上でのラジカル種生成機構の解析の三項目を実施した.この結果、(1)に関してはイオンシャワー法によりラジカル種の生成を促す機構を設計・構築し動作確認を行うところまで立ち上げ作業が進んだ。(2)についてはグラファイト表面における一酸化炭素分子と窒素分子の衝突散乱過程を表面温度150 Kから400 Kまで、及び並進運動エネルギー275 meVから600 meVまでの間で詳細に変化させて実験計測と解析を行った。両分子はどちらも質量が同じ直線分子であるが、重心位置とダイポールの大きさが異なるという違いを持っている。このため、フッ化リチウム表面においては衝突時の回転エネルギーへのエネルギー移動過程が両分子間で著しく異なることが我々の過去の研究から分かっている。このような違いがグラファイト表面においても散乱過程に現れることが期待された。しかしながら驚いたことに、どちらの分子とも非常に類似した散乱強度の角度分布を示すことが明らかとなった。これは表面が比較的軽い炭素原子の2次元ネットワークで構成されているため、分子―表面間の衝突時に表面が原子の連なった網のような振る舞いをすることに由来する特異な散乱過程であるということが理論計算による解析から明らかとなった。(3)についてはn-dopeしたグラファイト表面に酸素分子を吸着させた際に酸素ラジカルの形成に伴う表面から酸素への電子授受過程をヘリウム原子線散乱法によって捉えることに成功した。
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