研究課題/領域番号 |
23760025
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米谷 玲皇 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90466780)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ナノメカニクス / ナノ機械振動子 / 光検出 / センシング / DLC振動 / シリコン振動子 / 超薄膜 / フォトニック結晶 |
研究概要 |
本年度は、研究目的であるナノ機械振動子による光波長検出達成に向けて、ナノ機械振動子の作製法及びこれを利用した検出原理に関する研究を行った。 ナノ機械振動子の形状については、超薄膜構造、及びフォトニック結晶を有する振動構造が、光照射効果(放射圧,熱等)の高感度検出に対し有効であると考えられる。今年度は、ダイアモンドライクカーボン(DLC)及びシリコン(Si)製の超薄膜両持ち梁型振動子の作製を行いその共振特性を評価した。加えて、光検出の高感度化を目的として、それぞれの振動子への歪印可による高Q値化手法の適用性を検討した。結果として、DLC振動子或いはSi振動子を600℃~700℃の温度で熱処理することにより、熱処理に伴う再結晶化により振動子に引張応力を効果的に印可し(最大印可応力: 875 MPa)、高Q値化できることを実証した。なお本研究では、最大約1.5倍の高Q値化を達成した。 また、より高感度な光検出達成に向けて、光と強く結合するフォトニック結晶の形状・材質を設計するとともに、超薄膜振動子への組み込み方法を検討した。具体的には、1.5μm帯の光に対し吸収率が波長選択的に増加するフォトニック結晶を有限差分時間領域法(FDTD)解析を用いて設計し、フォトニック結晶(ナノホールアレイ型)を振動子振動部に有する振動子を試作した。直径約430nm, 周期約1570nmのナノホールアレイが波長選択的な光検出に有効であることがわかった。これを基に、ナノホールアレイを有するナノ機械振動子を作製した。結果として、ナノホールが組み込まれていない振動子と比較し、特定の波長に対し光に対する感度がおよそ4.2倍となることがわかった。光検出に対するナノホールアレイの有効性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、H23年度は、超薄膜振動子の高Q値化とフォトニック結晶(ナノホールアレイ)の光検出高感度化への有効性の確認を行った。各研究における達成度の自己評価は以下の通りである。【超薄膜子振動子の高Q値化】超薄膜振動子の高Q値化は、前述したように過去の研究で獲得していた引張歪印可による手法を適用した。この高Q値化について、本研究では、光検出振動子作製プロセスと親和性の高い手法で引張応力を印可する必要があり、熱処理に伴う振動子構造材料の再結晶化を利用する新しい手法を考案した。本手法は、熱処理のみで引張応力印可及びそれによる振動子の高Q値化が達成できるため、本研究における光検出振動子作製に有効であると考えられる。なお、ナノホールアレイ機械振動子についても本手法を用いて作製を行っている。【ナノホールアレイの光検出高感度化に対する有効性の確認】本研究では、ナノホール機械振動子を試作し、その有効性を確認した。これにより、本年度の目標であった高感度光検出のためのナノ機械振動子に関する基礎的知見,設計指針を獲得した。ナノホールを利用した光に対する高感度化の研究は概ね順調に進展していると評価できる。ナノホールアレイ構造,形状及び振動子上での配置位置の最適化により、さらなる高感度化が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、光に対する機械振動子の高感度化に関する研究を継続して行うとともに、特に以下の項目について重点的に研究を推進する。【波長検出分解能に関する評価】本研究は、高感度光波検出素子を目指したものであり、波長の検出分解能が素子特性として重要となる。本研究では、1540nm~1560nmの範囲の波長変化に対する波長検出分解能を評価する。また、獲得される結果を基に、振動子の性能(共振特性, 光結合性)の最適化を行う。特に、光との強結合性を誘起するナノホールアレイは本研究達成の鍵であり、材質、周期性及び共振特性(共振周波数,Q値)をFDTD及び有限要素法を活用しながら多角的に評価し、その特性向上を進める。場合によっては、振動子の連結機構の利用等により振動子の光波に対する高分解能化を試みる。【光検出振動子の素子化】 上記に加え、光検出振動子のセンサとしての素子化を進める。本研究では、具体的には、ピエゾ抵抗材料或いは静電容量変化計測を利用した電気的な振動検出を目指す。特に、光に対して力学的(引張応力,連結機構)或いは光学的(ナノホール構造)に高感度化,高分解能化された振動子の特性を阻害しないことが重要であり、本研究推進により最適な振動検出機構の組み込み方法を検討し、光特性変化及び振動子変位に対する検出感度を評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の研究課題推進での研究費使用計画は以下の通りである。【物品費】物品費は、主に振動子素子化に向けた電気特性評価のための計測器(ピコアンメータ等微小信号測定器)の購入に充てる。光波の高感度検出達成には、光照射に伴う振動特性変化を電気的に精度良く取り出せることが必須であり、電気信号の計測系の整備に本研究費を使用する。その他の物品費は、研究を遂行するために必要となる試薬,材料等の消耗品の購入に用いる。【旅費】本研究課題に獲得される成果発表を目的とした学会参加に伴う経費(交通費,宿泊費)として使用する。【人件費・謝金】人件費・謝金としての使用は予定していない。 【その他】研究成果発表に関わる学会の参加費や研究成果論文別刷り費として使用予定である。
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