研究課題/領域番号 |
23760025
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米谷 玲皇 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (90466780)
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キーワード | ナノメカニクス / ナノ機械振動子 / 光検出 / センシング / DLC振動子 / シリコン振動子 / 超薄膜 / フォトニック結晶 |
研究概要 |
今年度は、研究目的であるナノ機械振動子による光波長検出達成に向けて、ナノ機械振動子の新構造材料に関する検討と、フォトニック結晶を有する振動子の波長検出特性の評価を行った。 ナノ機械振動子の構造材料については、超薄膜構造が光により励起される熱に対し敏感であると推測されるため、原子層厚さの材料であるグラフェンの利用を検討した。具体的には、両もち張り構造のグラフェンメカニカル振動子の作製とその性能向上に関する研究を行った。グラフェンメカニカル振動子は、キッシュグラファイトから剥離法を用いて作製したグラフェンを用いて作製した。また、昨年度獲得した知見(引張応力印可によるQ値向上)を活用し、グラフェンメカニカル振動子のQ値向上を試みた。結果として、レジストの熱収縮を利用して、振動子に約1GPaの引張応力を加えることで、室温環境においてQ値約7000を達成した。 また、プラズモンアンテナ型ナノ周期構造を有する振動子の波長検出特性の評価を行った。ナノ周期構造、振動子の構造設計は、前年度の数値解析,実験で獲得した成果を基に行った。最終的に、直径161μm,厚さ120nmの円形薄膜振動子上に、ピッチ1340-1700 nmの同心円状プラズモンアンテナ構造を有する振動子を作製した。材質は、薄膜振動子がシリコン、ナノ周期構造がダイアモンドライクカーボンであり、その上にPt薄膜を70nm製膜したものである。この振動子に対し、波長1535-1565 nmの光を波長可変レーザーを用いて照射し、その波長変化に伴う共振変化を計測することで、波長検出特性を評価した。結果として、作製した振動子が0.024nmの波長検出分解能を有することが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、H24年度は、超薄膜振動子の新構造材料の検討とその高Q値化とナノ周期構造を有する振動子の光波長検出分解能の評価を行った。各研究における達成度の自己評価は以下の通りである。 【新構造材料の検討とその高Q値化】 超額膜振動子の構造材料については、前述したようにグラフェンを採用し、その振動特性Q値の向上を試みた。また、このQ値向上については、昨年度獲得された成果である引張応力印可による手法を適用した。結果として得られたQ値(7000)は、これまで様々な研究者により報告されてきた室温で動作するグラフェンレゾネータと比較し、極めて高いものである。グラフェン振動子の共振周波数シフトを利用した光波長の高分解能センシングへの応用が期待される。 【ナノ周期構造を有する振動子の光波長検出分解能の評価】 本研究では、プラズモンアンテナ型ナノ周期構造を有する振動子の光波長検出分解能の評価を行い、結果として、0.024nmの波長検出分解能を得た。本研究では、ナノ機械振動子による波長検出をDWDM技術で適用すること目的としている。DWDMで用いられる光の波長間隔は0.8 nmであり、本研究の成果の波長検出分解能はそれと比較し十分小さく、DWDM技術への応用可能性を秘めていると期待できる。 以上により、本研究は概ね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、光波長検出に対してさらなる高感度化,検出分解能の向上に関する研究を進めるとともに、素子化,素子安定性の向上に関する研究を行う。 【高感度化,検出分解能の向上】 上記のように、現時点でも0.024nmの高分解能を達成しているが、本研究では、高感度化、高分解能化という点に対して、さらなる性能向上を試みる。具体的には、今年度獲得された成果である高Q値グラフェン振動子の利用を試みるとともに、プラズモン励起構造であるナノ周期構造のさらなる形状,材質最適化を進める。 【素子化,安定性向上】 前述したように、本研究は、波長検出原理の確立,超高分解能波長検出を達成しつつあるが、研究を円滑に進めるために、デバイス駆動電極の無いナノメカニカル振動子の特性評価に留まっていた。今後は、素子化を目的として、これまでのナノメカニカル振動子に、電気的に励振、振動検出できる機構の組み込みを進めていく。また、それとともに素子安定性の評価を行い、本研究の最終目標であるDWDM光通信技術への応用を展望する。
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次年度の研究費の使用計画 |
H25年度の研究課題推進での研究費使用計画は以下の通りである。 【物品費】物品費は、主に振動子素子化における材料費,部品費及びプロセス装置の消耗品の購入に充てる。その他の物品費は、研究を遂行するために必要となる試薬,材料等の消耗品の購入に用いる。 【旅費】本研究課題に獲得される成果発表を目的とした学会参加に伴う経費(交通費,宿泊費)として使用する。 【人件費・謝金】人件費・謝金としての使用は予定していない。 【その他】研究成果発表に関わる学会の参加費や研究成果論文別刷り費として使用予定である。
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