研究課題/領域番号 |
23760027
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
大野 真也 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 特別研究教員 (00377095)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | シリコン / 酸素 / 遷移金属 / 光電子分光 |
研究概要 |
平成23年度は、軌道放射光を利用した光電子分光を行いチタンと酸素或いは鉄と酸素が共吸着したSi(001)表面の電子状態や反応過程を調べることを目的として実験を行った。チタンの場合、チタンシリサイドは電極材料、チタン酸化物は高誘電率絶縁膜等の材料として有望であるが、チタン-酸素-シリコンの三元系の電子状態に関してはこれまでに詳しい報告はなされていない。本研究に先立つ研究において、数原子層のチタン薄膜によって被覆されたSi(001)表面に酸素分子を暴露すると、室温においてSi(001)基板が約0.9 nmまで酸化する現象を明らかにしている。効率的な酸化をもたらしている要因はまだ良く分かっていないが、チタン薄膜表面で解離した酸素が、酸素イオン(O-,O2-)を形成することによるものと考えている。遷移金属と酸素の共吸着系の電子状態をさらに考察する目的で、これとは逆の過程すなわち酸化シリコン表面にチタンあるいは鉄を蒸着した場合の電子状態についての研究を開始した。その結果、これらの遷移金属の吸着によりSi2p内殻状態に着目した場合、見かけ上酸化反応が促進されることを見出した。この結果は、金属吸着誘起による酸素吸着位置の変化、または電荷移動による化学シフトが起こっていることを示している。後者の場合、はじめに述べた酸化促進反応についても定量的な側面での解析について注意が必要であるという知見が得られたことになる。化学シフトの微視的な起源については、理論的な解析にも着手した。また、主な目標である三元系だけでなく、シリコン基板の酸化およびシリサイド形成に関しても基礎的な知見を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
冷却CCDによる反射分光装置の改良は懸案事項であったが首尾良く遂行することができた。その結果、表面差分反射分光(SDR)と反射率差分光(RDS)を超高真空槽に付設した光学計測装置として世界的にも希少でありかつ国内で唯一の計測システムの継続的に維持することができた。現在、従来用いていたフォトダイオードアレイ素子と比べての性能評価を進めているところである。高輝度放射光を用いた実験に関しては、KEK PF-BL18Aで実施する予定であった課題の一部を震災の影響もあり佐賀大学シンクロトロン光応用研究センターが管轄するSAGA BL13において実施した。その結果、チタン酸素共吸着Si(001)表面の電子状態の解析を遅滞無く遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に実施した、装置の改良および予備的に得られた研究成果により研究対象である金属酸素共吸着Si(001)表面の電子状態や反応過程について定性的な理解は十分に得ることができている。電子状態の起源について、いくつか未開拓の知見が得られているが、これらの諸点について定量的に信頼できる実験データを得ることが課題である。さらに、原子レベルでの界面構造や反応の詳しいメカニズムを確立させるためには量子化学計算(第一原理計算)を援用することも効果的と思われる。当初の研究計画には盛り込まれていなかったが、産総研から移設したSTM装置が順調に稼動状態となった。この装置を用いて、原子レベルで表面構造を明らかにすることで新たな知見が得られると期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の予算は、主に真空部品、光学部品等の消耗費と学会参加のための旅費に使用する予定である。
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