最終年度は、高融点の金属を蒸着可能な電子線衝撃型の金属蒸着源を作製し、表面1次元構造を有するSi(110)-16×2基板上へのハフニウム(Hf)の蒸着を試みた。しかし、Hfを1200℃付近まで加熱することが出来たものの、融点近傍に達する前に蒸着源や周辺の真空槽内壁からのガス放出の影響で真空が悪化し、Si(110)-16×2清浄表面を保つことが出来なかった。そこで、大気圧中でも安定な表面1次元構造を示す水素化Si(110)表面を作製し、その表面構造、表面界面の化学状態、および表面の局所価電子状態を解明した後にHfを蒸着させることとした。 表面1次元性を保持する水素化Si(110)面(H/Si(110)-1×1)は、すべての表面サイトが消失したことから全サイトに均一に水素が吸着するものと考えられる。また、表面サイトがすべて消失したためにバンドギャップ中に存在していた表面サイトに局在していた価電子準位も消失し、その価電子帯上端がバルクと同じ程度になることが分かった。さらに、H/Si(110)-1×1面を大気圧化に曝すと、表面構造の変化は観測されないが、Siに酸素吸着が起こった。これは、酸素分子がH/Si(110)-1×1面で解離し、界面に潜り込むようにして酸化を進行させることを示している。そして、表面の局所価電子状態を観測した結果、Siバルクの価電子帯上端よりも約1eV程度高結合エネルギー側(フェルミ準位から見て深い方向)へシフトしていることが分かった。 本研究の成果は、新しいSi半導体基板材料として期待されるSi(110)の表面1次元構造と高誘電体材料を組み合わせた原子スケールでのマルチプルゲート構造開発に向けた重要な開発指針となる。そして、半導体素子の小型化による情報通信の高速化や省エネルギー社会の実現に貢献できると期待される。
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