研究課題
波長の大きさに制限されてきた光学測定の空間分解能は,近接場光の利用により,飛躍的に向上した。通常,この近接場光による測定では,近接場光が照明された領域だけでなく,直接近接場光により照明されていない周辺の領域からの光学応答情報も検出している。本研究では,その近接場光照明の影響が及ぶ領域内の光学応答の空間分布を,近接場測定で検出することにより明らかにし,照明した領域からその周辺へどのように応答が伝搬していくのかを調べる。最終年度に当たる今年度では,いくつか当初の計画で想定していなかったアプローチの研究も行った。そのひとつとして,実験的な知見を解釈するために,電磁場シミュレーションをした。具体的には,金微小球のモデル系において,系全体を光励起した場合と局所的に励起した場合の違いや,局所励起に対する構造サイズの依存性などを調べた。もうひとつのアプローチとして,ナノ構造体の形状が誘起する光学活性に関する研究を行った。鏡像対称性を有しないキラル分子は,旋光性や円二色性といった光学活性を示すが,近年,卍型などに代表されるキラルな形状を有したナノ構造体においても光学活性の発現が報告されている。我々は,アキラルな(キラルでない)形状を有するC型のナノ構造体2つを段階的に接続することにより,キラルな形状を有するS型のナノ構造体を作成し,その構造遷移過程において,系が光学活性を獲得するプロセスを追跡する研究を行った。その結果,2つのアキラルな部分構造(C型)間の距離が,数百nm程度の長距離からキラルな相互作用を行い,光学活性を発現していく様子を明らかにした。この形状による光学活性は,キラルなナノ構造形状の内部における電磁気的相互作用により発現すると考えられる。本結果は,当初の計画にはなかったアプローチではあるが,別の視点から「光励起による応答の流れ」を実証したものと言える。
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(招待論文) 表面科学
巻: 35巻6号 ページ: 印刷中
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