本研究の目的は、新規に提案する膜構造を持たせたMoとSiから成る多層膜がレーザープラズマ励起に基づくX線レーザー(XRL)光源(発振波長13.9 nm)に対して反射型の移相子(四分の一波長板(λ/4板))として機能すること、及びそれを用いてXRLの偏光状態を制御し、円偏光化できること実証することである。これを実現するために、(1)反射型多層膜移相子の設計・製作、(2)シンクロトロン放射光源(SR)による移相子の偏光特性評価、(3)反射型移相子による円偏光XRL生成の実証を行った。 (1)では、多層膜移相子の構成物質や構造等について理論的検討を行い、典型的な等周期Mo/Si多層膜鏡の表面近傍にあるMo厚を薄くすることで、反射型のλ/4板(sとp偏光間に位相差90度、反射強度比1)として機能することをシミュレーションにより見出した。この膜構造をイオンビームスパッタリング法により製作し、X線回折パターンから膜厚を評価した結果、設計通り(誤差±0.2%以下)に成膜出来ていることを確認した。また、偏光計測に必要な反射型偏光子(アナライザ)も同様の方法で作製・評価した。(2)では、波長13.9 nmのSRを用いて、回転検光子法に基づく偏光解析法により多層膜の偏光特性(s及びp偏光反射率、位相差等)を評価した結果、反射型のλ/4板として機能していることを実験的に明らかにした(s偏光反射率6.9%、p偏光反射率7.4%、位相差92.9°)。(3)では、XRLビームライン上に設置可能な偏光評価装置を新たに開発した。これに反射型移相子と反射型偏光子を搭載し、XLRを反射させた結果、円偏光度約70%のXRLの生成に成功した。
|