研究課題/領域番号 |
23760044
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
久保 敦 筑波大学, 数理物質系, 助教 (10500283)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | 表面プラズモン / フェムト秒 / 時間分解 / 蛍光顕微鏡 / 微小光学 / 光物性 / 表面・界面 / 多光子励起 |
研究概要 |
まず最初に、当研究は2011年3月11日の震災による実験装置の損壊のため、計画が遅れざるを得なかったことを述べておきたい。当研究は10フェムト秒超短パルスレーザーを励起光源に用いることで、時間幅がきわめて短い「表面プラズモン波束」を金属薄膜上に励起し、ついで独自の顕微鏡法を併用することで金属薄膜上でのプラズモン波束の伝搬を映像化することを目的としている。 今回、近赤外位相相関10フェムト秒レーザーパルス対を励起光減とする二光子蛍光顕微鏡法を開発し、銀(Ag)薄膜上に励起されたSPP波束が光速の90%の群速度で伝搬する様子をフェムト秒の時間分解能で映像化することに成功した。 当成果の意義は以下の通りである。近年、表面プラズモンの波を信号伝達の媒体に用いる、超高速・高集積の次世代情報処理デバイスである、プラズモニックデバイスの研究が進められている。プラズモニックデバイスにおいては、情報の伝達は回路中を伝搬するプラズモンの「波束列」によってなされる。超高速動作の実現には、回路内における超短パルス的なプラズモン波束の振る舞いに関する理解が不可欠である。当成果は、10フェムト秒の超短プラズモン波束の動きを可視化することに成功したものであり、プラズモニック回路の新規開発や動作診断にきわめて有用な手法を提供する。特に重要な点は、当手法は近赤外領域のプラズモン波の映像化に世界で初めて成功した事にある。現在、光ファイバー網を用いた大容量情報通信には「通信帯」とよばれる近赤外光が使用されているため、実用的なプラズモニックデバイスも通信帯に適合する必要がある。当研究では二光子蛍光顕微鏡法を用いる事により、今までなされなかった近赤外領域のプラズモン波の可視化を実現した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当研究は2011年3月11日の震災による実験装置の損壊のため、大幅に計画が遅れざるを得なかった。当研究は10フェムト秒超短パルスレーザーを励起光源に用いることで、時間幅がきわめて短い「表面プラズモン波束」を金属薄膜上に励起し、ついで独自の顕微鏡法を併用することで金属薄膜上でのプラズモン波束の伝搬を映像化することを目的としている。震災では、このフェムト秒レーザーをはじめとする光学系が構築されていた防振台の除震脚が倒壊したため、研究に必須の要素であるレーザーが稼働できなくなり、研究の遂行がしばらくの間不可能となった。震災後はレーザー類へのダメージの深さを診断することすらできない状況であった。装置の復旧に相当の時間を要したため研究の実施は遅れた。 特に、被災した10フェムト秒レーザーは製品ではなく、市販の光学部品の数々をもとに自作したものである。繊細な調整が必要な装置であり、当レーザーの製作には数か月を要した。今回の震災では、「市販製品」である実験装置の被災については、修理や買い替え、もしくは製造業者による再調整依頼、等の方法による「復旧に要する実費」が計算でき、その費用を被災による被害額として申請することができたが、自分のケースでは自作装置のため同様の申請を行う事が出来なかった。また、自作レーザーと同等のスペックを有するフェムト秒レーザーは、市販品では数百万円~1千万円程度であり、費用の面からとても新規購入できるものではなかった。 結果として、自作レーザーの復旧に必要な費用は自らの資金(当科研費)から拠出する他なく、この費用をできる限り確保しておく必要があったため、2011年度に予定していた物品の購入に関しては相当に見送らざるを得なかった。
|
今後の研究の推進方策 |
上述したように、2011年3月11日の地震によりフェムト秒レーザーを含む実験装置が損壊し、その後の復帰に必要な経費の見通しが立つまでに相当の時間を要したため、2011年度に予定していた物品の購入は大幅に見送らざるを得なかった。そのため、2011年度の予算の大部分を2012年度に繰り越すことになった。 現在のところ、被災した自作フェムト秒レーザーの再稼働に成功したため、実験装置の復旧そのものに研究費の多くを費やさねばならない状況ではない。当初の研究計画に従った研究の推進を行う。 2011年度に実現した時間分解二光子蛍光顕微鏡法による表面プラズモン波束の映像化技術に関し、2012年度には光学部品類の最適化による測定感度の向上を図ると同時に、試料の製作方法に関し最適な蛍光物質の探索と蛍光膜形成法の見直しを行い、膜厚が均一で表面粗さの小さい極薄膜の形成法の確立を行う。 2012年度はプラズモン導波路の製作と導波路を伝搬するプラズモン波束のフェムト秒映像化を目的として研究を進める。金属細線(ストリップ)型、ドット配列型、V溝型などの導波路構造について、電磁場解析シミュレーションによる波束伝搬特性のシミュレーションを行い、特にプラズモンの長距離伝搬モードを有し、減衰の小さい波束伝搬が期待できる導波路形状を選出する。次いで、導波路の製作と蛍光膜塗布を行い、波束伝搬の動画像化を行う。導波路の製作には集束イオンビーム法による基板のナノスケールエッチング、および電子ビームリソグラフィー法による金属ナノ構造形成の技術を用いる。試料制作にあたっては、(独)物質・材料研究機構、ナノラインの支援を仰ぐ予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
以下の項目を予定してるほか、3月に研究実施した分の物品費および旅費の一部が4月払いとしているため、この分が含まれている。設備備品費:対物レンズ、精密ステージ消耗品費:光学部品(ミラー、レンズ、フィルター、プリズム、ホルダー等)、および、試料製作用消耗品(蒸着用ターゲット、シリコン基板、PMMA、色素分子)旅費:(国内学会出張x5、国際会議出張x2)その他:論文出版費、NIMSナノライン使用料、学内工作部門、低温寒剤使用料
|