研究課題/領域番号 |
23760048
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
清水 亮介 電気通信大学, 先端領域教育研究センター, 特任准教授 (50500401)
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キーワード | 量子光学 / 量子もつれ / 量子エレクトロニクス / 非線形光学 |
研究概要 |
今年度は、アップコンバージョン法を用いた時間分解型単一光子検出システムの開発を進めた。アップコンバージョン用のバルク型非線形光学素子としてPPMgSLT (Periodically Poled MgO-doped Stoichiometric LiTaO_3)の仕様を決定し、導入を行った。時間分解型単一光子検出システムとして機能させるためには、波長1584nmの光子を波長792nmの超短パルスレーザー光と和周波混合を行い、高効率に528nmの光子へと変換する必要がある。導入した素子には、4種類の周期分極反転構造が含まれており、これらの中からアップコンバージョンに最適な周期条件と素子温度を決定した。さらに、超短パルスレーザー光の強度が660mWの条件下で、変換効率38%で波長1584nmの光子を528nmの光子へと変換できていることを確認した。超短パルスレーザー光の強度を660mWに固定し、波長1584nmのレーザー光の強度を低下させ、周波数上方変換に関与している実効的な光子数が40個程度となるまで、変換効率を維持出来ていることを確認した。 また、量子もつれ光子波束の波形整形に必要な要素技術の確立を目指し、超短パルスレーザー光の波形整形実験を行った。レーザー光の時間波形計測を行うために、BBO結晶を用いたオートコリレーターを自作した。また、1584nm付近で動作するファイバーレーザーから出射された超短パルス光を空間位相変調器による波形整形装置に導入し、スペクトル強度分布および位相分布の制御を行い、その時間波形形状を測定した。その結果、意図した時間波形制御が出来ていることを確認した。また、波形整形装置の損失が4.6~5.4dB程度あることも確かめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度に非線形光学素子との比較検討に費やした時間の遅れを取り戻すまでには至らなかった。非線形光学素子の購入を進めながら、超短パルスレーザー光を使った光波形整形技術に取り組む予定であったが、超短パルスレーザー光を出射するファイバーレーザーの動作が安定せずに、実験に使用可能となるまで3ヶ月程度の時間を要した。しかし、超短パルスレーザー光を使った予備実験の目的はおおよそ今年度中に達成し、量子もつれ光子波束の波形整形技術に向けた足がかりを作ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要欄で述べた波長変換実験では、検出器の測定感度の制限から、実効的な光子数を40個程度までしか実験出来ていない。そこで、これを単一光子レベルで行えるように、528nm光の検出を単一光子検出器へと変更する。これにより、単一光子レベルでの高効率波長変換が行えていることを示す。次に、自発パラメトリック下方変換過程から放出される光子に対する波長変換実験を行い、光子波束の時間波形測定を行う。以上の実験が成功した後に、時間分解型単一光子の検出システムから時間-光子数分解型2光子検出システムへと拡張を行う。さらに、自発パラメトリック下方変換過程からの光子対の時間領域分布測定をおこなうことにより、時間領域の量子もつれ光子分布測定技術を完成させる。 2光子を前年度までに開発した空間位相変調器による波形整形装置に導入し、量子もつれ光子波束の波形整形技術へと発展させる。最初の段階では、2光子波束の振幅と位相の制御を行った光子対の2光子干渉測定を行う予定である。ここでは、2光子干渉における位相変調の影響を確認する。その後、開発した時間領域2光子検出システムを使い、量子もつれ光子の時間-周波数領域分布を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでに、アップコンバージョン用の非線形結晶をはじめとした主要な装置の購入は終了している。次年度は、時間分解型単一光子検出システムの検出効率向上を目指した光学系の改良と、2光子検出システムへの拡張を行う際に必要となる光学部品の購入に研究費を充てる。また、最終年度であることから、成果の学会発表のための経費に充てることとする。
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