研究課題/領域番号 |
23760049
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
ブランチャード フランソワ 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 研究員 (00571358)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | テラヘルツ分光 / 近接場顕微鏡 / メタマテリアル / バイオサンプル |
研究概要 |
本研究の目的は様々な生体試料の化学組成を非破壊で測定し、生体活動においてこれらの化学物質がどのように変化していくかを時 空間分解して測定可能な方法を見いだすことである。 生体物質(蛋白質やその構成物質であるアミノ酸、糖など)はTHz 領域(0.1~10THz)に特徴的なスペクトル応答を示すことで知られている。 THz電磁波は可視光やX線と比較して、周波数が低く小さいエネルギーを持つ電磁波であるため、測定対象への影響が小さい。このようにTHz電磁波はバイオサンプルを非浸襲で測定可能なため、生きた状態で測定するのに大変有効である。このように、バイオ研究に有用なTHz電磁波であるが、これまでのTHz電磁波とバイオサンプルの相互作用に関する研究のほとんどはイメージングによるもので、細胞組織の状態の違い(生体に欠くことの出来ない水はTHz領域に大きな吸収を持つため、水分含有量の違いを可視化することが可能である。)をみている。しかし、THz電磁波の波長と同程度の数百μmのスケールより細胞は小さいサイズで、細胞や細胞組織の中で活動のおこっている領域を特定して観測するためには、THz波長以下のスケールでの観察方法が必要である。バイオサンプルの高い水分含有量のため、THz電磁場は大きな吸収を受けてしまい、THzイメージのコントラストの劣化が予想される。この問題を解決するため、メタマテリアルと呼ばれる金属周期構造物質を用いて測定感度の向上をはかる方法を提案する。さらに、生体を構成する蛋白質などの物質の情報を得るためには分光情報も必要である。 本研究では実時間での観測が可能なTHz近接場顕微鏡を構築し、メタマテリアルを用いた感度向上を図り、THzバイオセンサーの有用性を示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バイオサンプルは水分含有量が多く、THz領域にある水の大きな吸収のためTHzイメージのコントラストの劣化が予想される。この問題を解決す るため、顕微鏡の解像度を落とすことなく感度の向上を図る検出方法についての研究をすすめている。これまでに高強度THz光源を用いたTHz近接場顕微鏡を構築し、10μm以下の分解能でTHzイメージを得ることに成功した。バイオサンプルの評価、測定には感度の向上が不可欠であり、サンプル上でのTHz電磁場の増強のためにメタマテリアルを用いることを提案している。メタマテリアルは金属の波 長オーダーのサイズのパターンの配列を用いて特定の電磁波に対する光学特性を制御することが可能である。特定の周波数に共振する メタマテリアルを用いTHz電磁場を増幅し、感度を向上することが出来る。2011年度は そのようなメタマテリアルの一つであるSplit Ring Resonator(SRR)を20x20個配列させたものを作製し、THz顕微鏡下で評価した。得られた画像を時間解析、空間解析することで、SRRメタマテリアルの共鳴周波数、電場増強の空間分布等が明らかになった。また、SRR配列内の単 一欠陥の分光を行うことに成功した。また、単一SRRの共鳴周波数電磁場のマッピングを行い、FDTDシミュレーションとの比較により、その共鳴モードの起源を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
2011年度のメタマテリアルに関する成果をもとに、生体試料の測定、観察に適したメタマテリアルの探索を行う。実験結果をもとに、FDTDシミュレーション(Lumerical社製)を用いて、試料を感度よく検出出来る周波数に共鳴を持つメタマテリアルのサイズ、周期 等のパラメータを見つける。更に、この結果から得られたパラメータを用いてメタマテリアルサンプルを京都大学の設備を借りて自作する。自作のTHz近接場顕微鏡でこのメタマテリアルサンプルにより細胞の高感度なTHzイメージが得 られることを確認し、メタマテリアルを用いたバイオセンサーのTHzイメージングへの応用可能性を示す。本研究成果は今年度中に論文および、国際会議で報告する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
国際会議参加費 400,000円THz近接場顕微鏡用EO結晶 600,000円消耗品等(光学部品、論文添削料、投稿費) 300,000円
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