本研究では、高効率単一光子検出器と高純度偏光量子もつれ光子対光源の開発、それらを用いた高忠実度量子もつれ交換技術の確立を研究目的としている。本年度は、識別不可能性を有する高純度偏光量子もつれ光子対源の開発とそれを用いた量子もつれ交換実験を実施した。 Type-II型位相整合を達成する周期分極反転ニオブ酸リチウムバルク結晶とパルス幅100fsの超短パルスレーザ光(775 nm)を用いることで通信波長帯 (1550 nm)量子もつれ光子対の発生を試みた。偏光相関測定により87%の2光子干渉明瞭度を得た。不完全性は多光子対同時発生による偶発的同時計数によるものが支配的であるため、開発した光子対源は純度の高い量子もつれ状態にあることが分かった。 前記の量子もつれ光子対源を2つ用意し、多光子干渉におけるHong-Oh-Mandel(HOM)効果を観測することで、それらが識別不可能性を持つかを調べた。2光子干渉明瞭度82%でHOM効果が観測され、開発した量子もつれ光子対源は高い識別不可能性を有することが明らかとなった。 最後に識別不可能性を有する量子もつれ光子対源2つと前年度に開発済みの通信波長帯単一光子検出器4つを用いて量子もつれ交換実験を実施した。量子もつれ交換後の量子もつれ純度Fは古典的限界(0.5)を大きく上回り、かつ本研究の目標であったF ~0.9を達成した(論文投稿中)。このような高い忠実度は量子鍵配送への応用が可能となる水準であり、長距離量子鍵配送の実現へ向けた大きな前進であるといえる。
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