本研究は、定量性を有するコヒーレントラマン散乱(CRS)顕微鏡において、スペクトルイメージングを実現するための光源開発を行った。近赤外線波長域に零分散波長を有する非線形ファイバを利用して、光パラメトリック発振器の実現を試みると共に、非線形ファイバにおける広帯域光を利用したコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)によるスペクトルイメージングを実現し、近接場顕微鏡に応用した。前者においては、波長1060 nmに零波長分散を有する光ファイバとシングルモードファイバの1dB以下の低損失融着を実現し、リング共振器を構成し、光パラメトリック発振を確認した。後者においては、近赤外線波長域のシードパルスに対して非線形ファイバの零分散波長、長さ、モード面積の最適化を行い、低ノイズ広帯域光を発生し、近接場顕微鏡に応用可能な長期的安定性を実現した。また、群遅延の調整無しに分子の指紋領域である600~1600cm-1の範囲において、CARSスペクトルを一括取得できるシステムを構築し、DNA構成分子のCARSスペクトルを取得することでこれを実証した。このシステムを近接場顕微鏡に応用し、単一カーボンナノチューブのGバンドにおいて空間分解能50 nm、スペクトル分解能30cm-1でイメージングを行なった。しかし、課題として金属短針の光損傷が問題となることが明らかになった。今後、チップ増強効果の最適化によって、より高い空間分解能を実現すると共に、時間遅延の効果を利用した光損傷の回避と非共鳴背景放射光の抑制を実現することで、より複雑な振動スペクトルを示すサンプルに対しても近接場スペクトルイメージングが可能となることが期待される。
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