研究課題/領域番号 |
23760057
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 栄治 独立行政法人理化学研究所, 緑川レーザー物理工学研究室, 専任研究員 (80360577)
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キーワード | レーザー / 高次高調波 / アト秒パルス |
研究概要 |
昨年度,申請課題の大きな目的であったマイクロジュールクラスの高調波出力を達成することに成功し.アト秒パルスの高出力化の指針を確立した.本年度は,研究実施計画に基づき,開発したアト秒光源のパルス幅評価の研究に取り組んだ.実験では,高調波のカットオフ近傍のスペクトルを Sc/Si 多層膜ミラーにより選び出し,窒素分子に集光した.次に,アト秒パルスとの相互作用により発生したイオン種を,飛行時間測定型(TOF)のイオン分光器により計測した.TOFイオン分光器で観測したイオンの中で,質量数/電荷が14の位置の質量スペクトルを詳しく調べると,中心にあるピークの両脇に2つのピークが観測された.これは窒素イオンが高い運動エネルギーを持って放出された事を意味し,見積られた運動エネルギーの値から二価の窒素分子のクーロン爆発によって生じたものである事が分かった. 次に,観測された窒素イオンの信号を自己相関信号として用い,アト秒パルスの時間幅計測を行った.空間的に分割した2つのアト秒パルスの遅延を走査しながら、質量スペクトルの強度を記録した結果,アト秒パルスの生成が自己相関信号として観測された.相関波形より評価される高調波の時間波形は500 as であり, 出力エネルギー及びパルス幅から IAP のピークパワーは 2.6 GW と見積もられた.本研究により実現された IAP エネルギーは,従来法と比較して二桁以上高く,自己相関法で評価された IAP としては世界最短のパルス幅を持つ.開発された光源は,非線形現象を励起できる世界最短の IAP 光源であると共に,テーブルトップサイズながら加速器ベースの EUV-FEL 光源を凌駕する瞬間パワーを有している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題において大きな目標であった,単一アト秒パルスの高出力化,及びそのパルス幅特性の評価の両方を達成することに成功した.得られた単一アト秒光源のエネルギーはマイクロジュールクラスに達しており,世界最高の出力を有している.時間幅評価は,従来から行われている可視レーザーとの相互相関計測ではなく,窒素分子の非共鳴・二光子吸収過程を用いた自己相関計測を用いて評価を行った.相互相関計測によるパルス幅評価は,評価途中に計算の為の各種仮定が入る事や,複雑なデーター解析が必要な事から,その評価結果に対して議論が多かった.自己相関法は非線形プロセスを誘起する媒質が非共鳴な応答をする限りパルス光の時間波形を直接反映した信号が得られる事から,可視レーザーの一般的なパルス幅計測として広く使用されており,最も信頼できる時間波形測定として位置づけられている.これまではアト秒パルスの出力エネルギーが低いために,自己相関計測による評価は不可能であったが,交付課題の研究成果により,それらが可能となった.また測定対象とした窒素分子の二光子吸収過程は,アト秒パルス幅の情報を与えるだけでなく,XUV 領域の非線形プロセスという物理現象としても大変興味深い. 以上,交付課題の成果から,開発した高調波光源が,非線形現象を誘起できる程に強力で,且つアト秒という時間幅を持つことが裏付けられた.
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今後の研究の推進方策 |
交付課題により実証されたアト秒パルスの高出力化法に基づき,より短波長域のアト秒光源の開発を行う. 具体的な光源スペックとして,パルス幅: 500 アト秒(光子エネルギー40 eV), 出力: 0.5 uJ/パルス(ピークパワー: 1 GW) を目指す.本光源スペックを実現するため,励起レーザーの改良を行うと共に,発生セルの最適化を行う.さらに真空容器内で長尺化された集光光学系のビームラインを構築することで,高調波発生に投入可能なレーザーエネルギーを大幅に向上させる.また開発した光源を用いて軟 X 線域の非線形相互作用実験,具体的にはHe 原子を用いた二光子ATI 及び,Xe 原子における2光子2 重空孔生成の観測を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
必要物品の購入において他予算からも本研究に対して補助が得られたため,本科研費から使用する予算を低く抑える事ができ,最終的に余剰金が発生した.そこで未使用額を用いて,より短波長域における単一アト秒パルス実験の為の備品を購入する.具体的には真空パーツ,レーザー光学部品等の消耗品の購入に使用する予定である.
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