研究課題/領域番号 |
23760058
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
野竹 孝志 独立行政法人理化学研究所, テラヘルツ光源研究チーム, 特別研究員 (70413995)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
本研究の目的は、今まで発生・検出が困難であったテラヘルツ周波数領域をカバーする、超広帯域・高感度分光システムを開発し、生命にとって極めて重要な物質である水の特性を明らかにする為の基礎研究を行う事である。具体的には、1~20THzにおよぶ超広帯域分光システムを開発し、10THz近傍に存在すると考えられている水分子間の伸縮振動モード及び秤動振動モードに着目し、液相の水が、過冷却状態や結晶氷、アモルファス氷といった異なる相に転移する際に、これら水分子間振動モードの吸収スペクトルが、どの様に変化するかを観測する事を目指す。我々は、有機非線形結晶BNA と2次非線形光学効果を用いた独自技術によって、従来の光伝導アンテナやパラメトリック発振によるテラヘルツ波発生周波数帯域(約0.1~3THz)を一桁拡張する、超広帯域波長可変(0.1~20THz)テラヘルツ光源の開発に成功した。この超広帯域テラヘルツ発生技術の逆過程を利用する事で、テラヘルツ波を超広帯域にわたり高感度で常温検出する事も可能となる。初年度は有機非線形結晶であるDAST及びBNA結晶を用いた超広帯域THz波発生・検出システムを用いた分光システムを構築する。そのために、新規結晶であるBNAに対する位相整合条件を明らかにする為、BBOを用いた超広帯域に渡りチューニング可能な2波長パラメトリック励起光源を開発し、2波長を800nmから1800nmまでスキャンし、差周波光混合により最も効率良くTHz波を発生・検出するための位相整合条件を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
差周波光混合により高効率でTHz波を発生・検出するためには、励起2波長光を800nm-1800nmにわたり超広帯域でスキャンする必要が生じる事が明らかになり、そのための励起光源としてBBOを用いた355nm励起パラメトリック発振器を新たに構築した為。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は発生・検出システムを組み合わせ、分光システムを構築する。分光計測を行う際、テラヘルツ帯において極めて吸収の大きい水試料に対して、通常の透過測定を行うのは困難である。更に反射測定でも、試料との相互作用長が表面のみの極めて短距離となり、必要な情報を抽出するのは難しい。本研究では、こうした問題を克服する為に、エバネッセントテラヘルツ波をプローブとして用いる全反射減衰法(ATR)を適用した分光システムを開発する。エバネッセント波を用いる事で試料との実効的相互作用長を大きくでき、反射率の減少として試料の情報を高精度で検出できる。全反射減衰分光を行うために、テラヘルツ帯で吸収が少なく屈折率の大きいシリコンプリズムを利用する。シリコンプリズム界面において全反射が生じる際、テラヘルツエバネッセント波は、波長の数分の1 程度まで水試料側に侵入し、吸収の強さに応じて反射波のエネルギーが減少するので、この全反射減衰(ATR)波を検出する事によりスペクトル情報を得る事が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
超広帯域THz発生・検出システムを構築するために必要な光学部品に関しては、過去に購入した部品を再利用したりしたため、予定より少ない金額で済んだ。しかしながら、THz帯で超広帯域で全反射プリズムとして動作を期待しているシリコンの高周波帯での吸収が大きいことが分かった。そのため今年度は、申請段階では考慮していなかった他の材料をいくつか新規購入し試す必要がある。それ以外では、超純粋作成装置や分光計測用のクライオスタットなどを購入する計画である。
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