本年度は、355nm光励起による2波長BBO光パラメトリック発振器を励起光源として、有機非線形光学結晶DAST及びBNA結晶を用いた差周波発生により、広帯域周波数可変性を有するTHz光源を開発した。さらに、高感度THz光検出のために、周波数アップコンバージョンによる検出を試みた。光源から発生させたTHz光及び、1波長KTP光パラメトリック発振器からの励起光をコリニアにDAST結晶に入射することで、周波数がアップコンバージョンされたシグナル光を検出した。この際、InGaAsフォト検出器を用いることで室温・高速・高感度検出に成功した。 これらの光源と検出技術及び、シリコンプリズムによる全反射を応用することで、超広帯域テラヘルツエヴァネッセント分光システムを構築した。シリコンは屈折率が大きいため、20度近傍の入射角で全反射が生じる。また、全反射の際にP偏光とS偏光間に生じる位相差を利用することで、テラヘルツ光の偏光も制御できる。特に円偏光に対する吸収特性の差異を検出する二色性分光はテラヘルツ帯では極めてチャレンジングなテーマであり、本研究ではこちらにも応用出来るようなシステムを構築するため、シリコンのプリズムのカット角を42度とした。こうする事でテラヘルツ直線偏光を円偏光に変換することが可能となった。実際にエバネッセント分光システムを構築し、全反射したテラヘルツ波の検出にも成功した。 次に水に対するテラヘルツエヴァネッセント分光を試みたが、水及びシリコンプリズムによる吸収が大きく、有意な信号を得る事が困難であった。現在、明確な信号を得るためにテラヘルツ光の更なる高出力化、狭線幅化等に取り組んでいる。
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