研究課題/領域番号 |
23760071
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研究機関 | 九州シンクロトロン光研究センター |
研究代表者 |
金安 達夫 (財)佐賀県地域産業支援センター九州シンクロトロン光研究センター, その他部局等, 研究員 (90413997)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 電子蓄積リング / 運動量アクセプタンス / レーザーコンプトン散乱 |
研究概要 |
今年度は運動量アクセプタンスの直接評価に必要な実験要素技術の開発に取り組んだ.具体的には波長1064nmのファイバーレーザーを用いたコンプトンガンマ線の発生試験と放射光強度計測による損失電子数モニターの開発である. ファイバーレーザーと1.4GeV電子ビームの正面衝突による逆コンプトン散乱では最大エネルギー34MeVのガンマ線が生成される.ファイバーレーザーの設置と調整の終了後,既存の輸送光学系を活用して速やかにコンプトンガンマ線の生成試験を行った.シンチレータによるエネルギースペクトル測定の結果,ガンマ線強度は設計値に比べてやや弱いものの,逆コンプトンガンマ線が確実に生成されていることが確認された. 損失電子数モニターはアバランシェフォトダイオードによる可視光領域の放射光強度測定を利用する.今年度は平均電流測定と光子計数の二通りのモニターシステムを加速器診断ビームラインの暗室内に構築し,それぞれの性能評価実験に取り組んだ.光子計数法は数千個の蓄積電子数に対して一電子損失を計測可能と見込まれる.一方,平均電流測定ではマイクロアンペア以下の微小蓄積電流をモニター可能である.両者に対してビームスクレーパによる微小電流調整を行いながら,ビーム電流に対するリニアリティと測定限界の評価実験を行った.いずれの方式においても暗室内の観測スペースへ輸送される放射光強度が設計値に比べ弱いことが問題となり,今年度は一電子損失の計測に成功しなかった.しかしながら集光光学系の調整や輸送路の実効的な開口を増すことで光強度を増加させることは可能であり,一電子計測の早期実現へ向けてモニターの調整試験を継続した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である電子蓄積リングの運動量アクセプタンスの直接評価に必要な要素技術の開発をおおむね順調に進めることができた.蓄積状態の電子ビームへ運動量変化を与えるレーザーコンプトン散乱については,波長1064nmのレーザー光と1.4GeV電子ビームとの衝突によるコンプトンガンマ線の観測に成功している.来年度以降にレーザー光の集光調整や電子ビームとの空間的な重なりの最適化に取り組むことで,散乱イベントレートのさらなる増加が見込まれており,コンプトンガンマと電子損失との同時計測が可能になると期待される.電子損失モニターについては一電子損失の計測に成功しなかったものの,モニター構成機器の基本動作に大きな問題は無いことを確認した.今後,観測スペースにおける光強度増加へ取り組むことで,一電子損失計測も実現されると期待される.
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題はコンプトンガンマ線の生成イベントレート増加と放射光強度測定による一電子損失計測の実現である.まずコンプトン散乱のイベントレートを増すために,レーザーの集光光学系の構築に取り組む.さらにレーザー光と電子ビームとの空間的な重なりを向上させるためレーザー光軸の継続的な調整を行う.電子損失モニターについては,観測スペースにおける放射光強度の増加及びバックグラウンドの低減が必須である.そこで光強度増加のため集光光学系の調整と光輸送経路の実効的な開口の拡大に努める.さらに暗室内の測定器周辺環境の整備によるバックグラウンドの低減に取り組む.またフォトダイオードによる一電子計測が困難な場合には,より高感度な光電子増倍管による光子計数の可能性も検討する.コンプトンガンマのイベントレート増加へ向けた調整や損失電子数モニターの立ち上げ調整と並行してリストデータ取得用のソフトウェア開発に取り組み,ガンマ線エネルギーと電子損失の相関調査の早期実現を目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究に必要な主要備品は本年度に購入済みである.次年度は,レーザーや可視放射光の集光光学系の構築に必要な光学素子や光学部品を適宜購入する.また本研究の進捗状況を国内・国際会議で報告するための旅費として使用する.
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