研究課題/領域番号 |
23760072
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
桑島 豊 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (40451736)
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キーワード | 固有値問題 / 特異値分解 / 分割統治法 / 並列計算 |
研究概要 |
研究代表者らが開発した多分割の分割統治法という行列の固有値問題や特異値分解を高速に行う新たなアルゴリズムに基づき、特異値分解に対する多分割の分割統治法アルゴリズムの改良を行った。 このアルゴリズムは、数学的には既に研究代表者らが開発した固有値問題に対する多分割の分割統治法を特異値分解へ応用することによって構成されるが、数値的な安定性を得るためには特異値分解に特有な拡張を行う必要がある。すなわち、行列の特異値はその行列から帰着される固有値の平方根により求められるが、数値計算上の誤差により求められる固有値が負ないし非常に小さい値となることがあり、そのことが数値的な安定性な安定性を確保する上で障害となる。本研究では、そのような条件の悪い行列であるか否かを事前に高速に検出し、悪条件の問題であれば専用の手法によって計算を実行する。悪条件専用の計算手法は従来の計算より時間をかけるが、事前に悪条件である部分をタイトに切り出すため全体の計算時間に多くの影響を与えない。 また、拡張したアルゴリズムと従来のアルゴリズムを数値実験によって比較を行い、多くの行列に対して速度、精度共に遜色ない特異値分解アルゴリズムが構成されたことを検証した。多分割の分割統治法は本質的に並列性の高いアルゴリズムであり、この検証結果から今後行う並列計算機へ実装を行うことにより固有値問題・特異値分解の実用的な並列ライブラリが構成できることが十分に期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度には、共有メモリ型並列計算機および分散メモリ型並列計算機への実装を予定していたが、予定を変更し、平成25年度以降に予定していたGPUを搭載したマルチコアプロセッサといった専用の計算機でない一般のコンピュータ上で高速に動作するような実装に関して、研究を行った。予定変更の理由としては、現在GPUを搭載したマルチコアプロセッサの研究が活発であり、有益な情報が入手できたことと、大型の並列計算機よりも一般の計算機で実装研究を遂行するために雇用する予定であった学生のスキル向上が思わしくなかったことも一因である。また、並列化にあたり、この研究の前段階であった固有値問題に対する多分割の分割統治法アルゴリズムと同様のプロセスで、特異値分解に対する多分割の分割統治法アルゴリズムも並列化し得るものと考えていたが、予想以上に異なる点が多く、逐次的な(並列化されていない)アルゴリズムの段階での設計見直しを迫られた。現在は予備的な実装をするにとどまっているところであり、進捗としてはやや遅れ気味である。 支出実績がない点についてであるが、GPUを搭載したマルチコアプロセッサを購入する予定であったが、現在保有しているものを利用して研究を進めているためである。
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今後の研究の推進方策 |
(平成25年度) 平成24年度から引き続きGPUを搭載したマルチコアプロセッサなどの専用の計算機でない一般のコンピュータ上で高速に動作するような実装を行う。この実装に関しては研究代表者に経験が少ないこともあり、雇用した大学院生とともにスキルを身につける必要があるため、年度末ないし翌年度までかかる予定である。 (平成26年度) 平成25年度に終えられなかった場合はマルチコアプロセッサへの実装・評価を行う。この研究で開発したアルゴリズムの実装をライブラリとして公開し、広く利用できるようにする。公開するためには信頼性の高いデータを示す必要があり、大学院生を雇用しつつ多角的な評価を行う。また、これまでの結果をまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
並列計算機への実装をサポートするために専用のPCを購入する。また、研究の成果発表・意見交換に伴う旅費、また雇用する大学院生への謝金に利用する。
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