研究課題/領域番号 |
23760081
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小熊 博幸 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80515122)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 疲労 / 内部破壊 / 疲労き裂進展 / 破面形成機構 |
研究概要 |
本研究では、真空環境における特有の現象である疲労破面上の粒状領域の形成過程ならびに形成機構を明らかにすることを目的とする。さらに、内部破壊における粒状領域形成を材料に関わらず統一的に説明可能な機構を示す。材料内部のき裂周囲の環境が真空環境に類似しているという考えの基に、真空中で微小欠陥を付与した試験片を用いて疲労試験を実施する。そして、微小欠陥からの疲労き裂の連続的な観察と試験後の破面解析を行う。 当初予定していたチタン合金(Ti-6Al-4V合金)については、試験片加工は完了したものの、微小欠陥加工については加工依頼先の都合で予定よりも遅れている。 一方、高強度鋼(SNCM439)については、円柱形の微小欠陥を試験片評価部に加工した。複数の大きさを試した後、形状を直径ならびに深さが共に15マイクロメートルと決定した。そして、疲労試験を実施し、微小欠陥からの疲労き裂の進展を確認した。そして、レプリカ法を用いて疲労き裂長さの進展状況を捉え、負荷繰返し数と疲労き裂長さとの関係を明らかにした。 さらに、SNCM439を用いた繰返し接触試験を行った。そして、TEMならびにEBSDによる接触面直下の組織の変化を調べた。その結果、繰返し接触による組織の微細化が生じていることを確認した。 2011年6月28日から30日にかけて開催された超高サイクル疲労に関する国際会議(Fifth International Conference on Very High Cycle Fatigue, VHCF-5)に参加し、真空環境が疲労き裂進展に与える影響についての発表を行った。また、内部破壊における疲労き裂進展機構に関する情報収集や意見交換を行った。さらにTU Kaiserslauternを訪問し、研究設備の見学ならびに研究に関する情報交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度には人工微小欠陥の加工ならびに予備実験を計画していた。チタン合金(Ti-6Al-4V)については試験片加工までは完了したものの、微小欠陥については加工依頼先の都合により今年度は実施することができなかった。また、真空中の疲労試験については、真空ポンプのコントローラに不具合が生じ、修理に時間を要しため予定通りには実施できていない。 高強度鋼(SNCM439)については微小欠陥加工を施した試験片を用いて疲労試験を行った。レプリカ法により疲労き裂進展の状況を観察し、負荷繰返し数と疲労き裂長さの関係を取得した。 また別途、SNCM439を対象として試験片表面に圧子を繰返し接触させる実験を行い、接触面直下の状態をTEMによって調べた。そして、繰返し接触によって接触面直下では組織の微細化が生じ、それを確認できることが示された。さらにEBSD(電子後方散乱像)によっても微細化を確認した。 超高サイクル疲労に関する国際会議においては、本研究の背景となった実験を中心とした発表を行い、有意義な意見交換もできた。また、内部疲労き裂進展機構に関連した発表を中心に、有益な情報を得ることができた。超高サイクル疲労の発生機構については、未だに統一的な見解は得られておらず、本研究の必要性ならびに重要性を感じた。 以上の通り、チタン合金関連については若干の遅れが生じているものの、平成24年度に予定していた内容の一部を実施することができたことから、全体としては予定通りに研究は進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
試験片加工ならびに微小欠陥加工の追加を実施する。チタン合金については加工業者の移転のため発注がずれ込んだが、予備実験用の試験片加工ならびに研磨は済んでおり、移転後直ぐに発注できる見通しである(5月上旬)。また、真空疲労試験機のコントローラに見つかった不具合は修理が終わり、実験を再開できる状態となっている。 平成23年度に実施した予備実験の結果をもとに、微小欠陥からの疲労き裂導入ならびに繰返し接触試験を実施する。試験は真空中ならびに大気中で行い、疲労き裂周囲の環境が破面形成、すなわち疲労き裂進展機構に与える影響を明らかにする。 観察方法については、大気中では微小欠陥からの疲労き裂をレプリカ法で観察することができたので、デジタルマイクロスコープと併用してこの手法も疲労き裂の観察に用いることにする。また、真空中での疲労き裂進展についてはデジタルマイクロスコープを用いた観察を行う。予備実験においてTEMによる観察やEBSDによる分析を用いることで、組織の微細化を確認できたので、本試験においてもこの手法を用いて破面直下の組織の状態について詳細を明らかにすることを試みる。 当初の計画通り、真空環境における特異な破面である粒状領域の形成過程ならびに機構を明らかにすることを目指す。さらに、内部破壊における粒状領域形成を材料に関わらず統一的に説明可能な機構を提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上述の通り平成23年度にチタン合金の微小欠陥加工が実施できなかったため未使用額が発生したが、平成24年度に予定した加工を行う。その他については、計画通り真空疲労試験装置や観察装置関連の消耗品などの購入、研究成果の発表や投稿に使用する。 以上の通り、当初の計画通りに研究費を使用する。
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