研究課題/領域番号 |
23760087
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
原 祥太郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (10401134)
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キーワード | ナノ材料 / マルチスケール / 転位 / 空孔拡散 / 分子動力学 |
研究概要 |
本年度は、前年度開発した、時間スケールの加速化を実現する分子動力学手法をより複雑な系へと展開した。まず、これまで金属バルク内での空孔拡散に限定していた現象を、bcc鉄結晶粒界での空孔拡散問題へと適用し、自己拡散係数を材料の融点の半分程度での温度領域において算出することを可能にした。得られた結果を、別途、反応経路法から導出した値と比較したところ、非常によい一致を示し本手法の妥当性が明らかになった。 つづいて、固体酸化物形燃料電池材料への適用も実施した。具体的には、電池性能の劣化に関連する電解質材料イットリア安定化ジルコニウムの陽イオンの自己拡散係数を算出した。本手法を用いることで、電池作動温度での自己拡散係数導出が可能とし、実験値とよい一致を示した。また、活性化エネルギーの配置によるばらつきの効果と、活性化エネルギーの温度依存性が自己拡散係数に与える影響が大きいことを明らかにした。 また、反応経路解析法と熱力学積分法とを組み合わせた、より簡便に活性化自由エネルギー障壁を取得できる新しい位相空間サンプリング手法の開発にも着手した。まずは、固体の塑性挙動の重要プロセスである転位生成過程と空孔拡散現象に適用した。結果、活性化自由エネルギーを異なる応力状態で算出し、活性化振動エントロピーの算出を可能にした。また、活性化振動エントロピーが材料のせん断定数の温度依存性に相関があること、活性化エンタルピーとエントロピーの間に、Meyer-Neldel則と呼ばれる比例関係が成立することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は予定通り、前年度に開発した加速化分子動力学コードを比較的単純なバルク系での空孔拡散問題から、より不均質で複雑な金属結晶粒界での空孔拡散問題へと展開できたこと、ならびに固体酸化物形燃料電池の陽イオン拡散問題へと発展させることができたことから順調に進展しているといえる。また、より簡便な位相空間サンプリング法の開発にも着手し、空孔拡散と転位生成という二つの現象に関する活性化自由エネルギーについて、より深い洞察を得ることができており、当初の目的は達成しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに開発した新しいスキームを用いて、金属・セラミクスを対象に、バルク・粒界の自己拡散係数を直接導出することが可能なったが、その妥当性を検討するには、別途反応経路解析から得られた活性化エネルギーデータを入力とするカイネティックモンテカルロ計算が必要である。今後は本検証を考察に含めて、海外雑誌等への投稿を実施する。
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次年度の研究費の使用計画 |
開発手法の妥当性を考察するため、最終的にはモンテカルロ解析を含めた結果を次年度には国内外発表・論文投稿することとし、未使用額はその経費に当てることとする。
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