研究課題/領域番号 |
23760091
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
松井 和己 横浜国立大学, 環境情報研究科(研究院), 准教授 (00377110)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 計算力学 / マルチスケール解析 / 強ひずみ加工 / 相変態 |
研究概要 |
本研究課題の中核となるマルチスケール・マルチフィジックス解析の基本的な定式化と数値解析プログラムを作成した.解析対象を2次元問題に限定し,(a)相変態を考慮した支配方程式とその境界値問題を解く有限要素解析プログラム(マルチフィジックス有限要素解析),および,(b)大変形状態においてもメッシュつぶれなどにより破綻することなく解析が継続できる手法を開発した(マーカ積分・マルチスケール解析).(a) 連続体熱力学の立場からさまざまな物理現象に対する統一的な支配方程式を導出する「変態・熱・構造(metallo-thermo-mechanics)」に基づいて,相変態を考慮した熱・構造連成の支配方程式を導出した.凝固などの1次相変態に伴う転移熱(潜熱)は異相間に存在するエネルギー障壁としてモデル化し,相変態に伴って生じる体積変化を熱ひずみとしてとらえ,塑性仕事などを考慮した熱力学的自由エネルギーを定義した.この全自由エネルギーに対する保存則ならびに熱力学の法則(Clausius-Duhemの不等式,Legendre変換など)を用いて,この系全体に対する支配方程式を導出し,これを数値的に解く有限要素解析プログラムを開発した.(b) 金属材料の組織変化は熱処理などの温度変化だけではなく,強ひずみ加工と呼ばれれる大変形下においても生じる.このような強ひずみ加工の数値シミュレーションでは,メッシュ潰れによって解析が破綻することが問題点としてあげられており,これを回避するためのメッシュ制御法がいくつか提案されてきた.本研究課題では,Euler 型定式化の枠組みでLagrange的な粒子の移動を取り扱うマーカ粒子法を導入したマーカ積分有限要素法を開発し,これをマルチスケール解析に拡張した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度は,本研究課題の中核となるマルチスケール・マルチフィジックス解析の基本的な定式化と数値解析プログラムを作成した.温度場と変位場という異なるふたつの物理現象を取り扱ったマルチスケール解析手法を開発することが本研究課題の目的であり,それらの構成要素を開発した点は,当初の計画どおりに進展していると評価した.また,当初の計画では温度変化によって生じるエネルギー変化ならびに相変態のみを研究対象としていたが,マーカ積分有限要素法を採用することによって,大ひずみによって誘起される組織変化も同時に取り扱うことができる可能性が見えてきた.つまり,この進展によって当初の目的以上の「統一的」な解析手法の開発も実現できる可能性がある.したがって,平成23年度の自己評価は「当初の計画以上に進展している」とした.
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に開発した,マルチフィジックス解析プログラムとマーカ積分・マルチスケール解析プログラムを融合し,当初の目的である「マルチフィジックス・マルチスケール解析プログラム」を開発する.これによって,熱処理や強ひずみ加工によって生じる組織変化を評価する数値シミュレーションが可能となる.変位場と温度場が連成する現象に対するマルチスケール境界値問題は導出したが,それぞれの反応速度が大きく異なるため,時間微分項の取り扱いが当面の課題として浮上した.反応速度の速い変位場の支配方程式に全体の時間軸をあわせることで対応できるが,計算効率という観点では,何らかの対応方法を検討したい.一方で,ミクロ領域とマクロ領域を完全に連成させるマルチスケール解析を実行するためには,大規模な並列計算が不可欠である.したがって,統合したマルチフィジックス・マルチスケール解析プログラムを大規模並列環境で効率よく実行できるよう,プログラムを修正する.
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次年度の研究費の使用計画 |
大規模並列計算にむけた開発環境として,PCクラスタを構築する.高性能なワークステーションを数台購入し,クラスタシステムを構築するために必要なソフトウェア群を導入して,システムを構築する.また,開発したマルチフィジックス・マルチスケール解析プログラムの検証や妥当性を評価するための比較対象として,汎用FEMソフトウェアANSYS(すでに導入済み)によるマルチフィジックス解析を実施する.このとき,ソフトウェアの使用方法などに関する技術サポート契約を締結し,短時間で比較対象の解析を実施できるようにする.これまでに得られた研究成果を発表するとともに,最新の研究動向を調査するため,国際会議(WCCM,ブラジル)に参加するために,外国旅費を計上する.
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