交通事故等の各種事故において頻度・重症度から脳外傷の予防が重要であるが,その評価は既存の頭部傷害基準では困難である.脳外傷を評価可能な傷害基準を制定するためには,(a)製品評価用ダミーで計測可能な頭部の剛体運動,(b)脳実質変形,(c)細胞スケール損傷までの空間的にスケールが異なる関係をシームレスに解明することが必要である.そこで本研究では実人体と形状・材料特性が等価な培養細胞接着脳物理モデルに対して,実事故レベルの外力を与えることにより,頭蓋骨の剛体運動スケールから脳深部の細胞変形スケールに至る脳外傷メカニズムを実験的にシームレスに解明することを目標としている. 本年度は,昨年度に引き続き,(b)脳実質変形と(c)細胞スケール損傷の関係を解明するために,培養神経細胞としてPC12細胞をシリコンゲル状に培養した神経細胞培養脳実体モデルを構築し,本モデルに対して回転衝撃を与え,脳実質モデルのひずみ分布をデジタル画像相関法により実施するとともに,神経細胞の形態変化観察を光学顕微鏡により実施した.コントロール条件下における神経突起損傷率を除外し,ロジスティック回帰モデルにより,神経突起損傷率を算出した.その結果,脳実質モデルのせん断ひずみ,主ひずみともに0.25近傍にて,神経突起損傷率が急激に上昇することを明らかにした. 以上より,本研究は超精密頭部実体モデルを用いることにより,(a)頭部の剛体運動と(b)脳実質変形の関係において,頭蓋骨‐脳間の相対回転にともなう,左右大脳の逆向き回転による脳深部せん断変形が重要であることを解明し,培養神経細胞モデルを用いることにより,(b)脳実質変形と(c)細胞スケール損傷の関係において,脳深部せん断変形と神経突起損傷率の関係を定量的に明らかにした.
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