研究課題
本研究では,生分解性樹脂に光解離性保護基を導入して加水分解抑制・促進のスイッチ機能を創製する方法を提案・構築し,これを天然繊維/生分解性樹脂グリーンコンポジットに組み込むことで,グリーンコンポジット(GC)が本質的に解決すべき課題である「使用時の分解・劣化の抑制」と「廃棄時の分解促進」の両立,すなわち加水分解挙動を制御する方法を,地球環境に優しい方法で達成することを目的とした.これにより,あらゆる天然繊維と生分解性樹脂の組み合わせにも対応可能な加水分解挙動制御原理の確立に寄与できると期待される.1年目の成果は,以下のように要約される.1)光解離性保護基のひとつであるo-ニトロベンジルアルコールを,生分解性樹脂であるポリ乳酸に導入し,光解離性保護基導入生分解性樹脂のフィルム状試験片を作製することができた.2)作製した試験片について,フーリエ変換赤外分光光度計等を用いて,光解離性保護基の導入位置や導入量を同定した結果,加水分解の自己触媒として働くカルボキシル基に光解離性保護基を導入できたことが同定された.3)光解離性保護基導入により加水分解にともなう劣化挙動が大きく抑制されたことから,本研究で試みた光解離性保護基導入による「使用時の分解・劣化の抑制」が可能であることが示唆された.また,紫外線照射により加水分解挙動が促進されたことから,本研究で試みた光解離性保護基の脱保護による「廃棄時の分解促進」が可能であることが示唆された.4)ガラスロッドを挿入したモデル複合材料の破壊過程のその場観察結果と有限要素法を用いた界面での応力解析により,加水分解制御が界面近傍での選択的分解・劣化挙動に影響を及ぼすことが示唆された.
3: やや遅れている
これまでの取組みで,生分解性樹脂であるポリ乳酸への光解離性保護基であるo-ニトロベンジルアルコールの導入は可能となり,フーリエ変換赤外分光光度計を用いて光解離性保護基の導入位置もおおまかに推定した.しかしながら,光解離性保護基の導入量の同定や光解離性保護基導入の最適化・安定化には至っていない.また,成形したフィルム上試験片を用いた引張試験によって,光解離性保護基導入による加水分解抑制効果と脱保護による加水分解促進効果を定性的に確認することができた.さらに,フィルム上樹脂試験片内に埋め込んだガラスロッドとの界面の内部損傷過程のその場観察法を確立し,界面はく離発生時の内部応力分布の有限要素解析手法を構築した.これにより,繊維/樹脂界面近傍での選択的分解・劣化挙動に及ぼす光解離性保護基導入の影響について,実験・解析両面から定性的な評価を実施した.しかしながら,天然繊維数本と光解離性保護基導入生分解性樹脂ならなるフィルム状モデル試験片内部の微視的破壊挙動のその場観察には至っていない.
まず,天然繊維と光解離性保護基導入生分解性樹脂ならなるフィルム状のモデル試験片を作製し,一定期間加水分解条件に浸漬後に,高速度カメラを用いて内部の微視的破壊挙動を高速その場観察するための撮影条件を決定する.その後,光解離性保護基導入生分解性樹脂と天然繊維の複合化プロセスを確立し,これまでに構築したその場観察方法と解析・シミュレーション方法により,変形・破壊特性および加水分解挙動と,繊維/樹脂界面での選択的な分解・劣化挙動を定量的に明らかにする.以上の結果を総合的に検討し,光解離性保護基導入量に対応したGCの分解・劣化挙動を記述・予測できる数理モデルを構築する.また,並行して,分子動力学などを用いて,生分解性樹脂への光解離性保護基の最適導入条件を決定する.
ポリ乳酸などの大量に必要な消耗品が比較的安価に入手できたことと,試験用の器具などの代用品が入手できたため,本年度は計画よりも経費がかからなかった.次年度は,本年度の詐差引額とあわせて,将来的に加水分解環境中でのその場観察や疲労特性評価などが可能な専用の試験装置を設計・作製する.また,生分解性樹脂への光解離性保護基の最適導入条件を決定するためには,分子動力学による解析・設計のみならず,設計の結果を実証する試験を大量に実施する必要がある.そのために,ポリ乳酸・天然繊維・光解離性保護基をはじめとする消耗品が大量に必要である.
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Composites, A
巻: 43 ページ: 239-246
10.1016/j.compositesa.2011.09.004