研究課題/領域番号 |
23760103
|
研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
安藤 妙子 立命館大学, 理工学部, 准教授 (70335074)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
キーワード | マイクロ材料力学 / 単結晶シリコン / マイクロマシン / MEMS / 破壊特性 / 脆性延性遷移 |
研究概要 |
本研究課題の目的は,マイクロ・ナノメートル領域におけるシリコン単結晶の破壊特性に影響を及ぼす要因を明らかにすることである.具体的には,(1) マイクロ・ナノスケール試料のための材料試験用マイクロデバイスの開発,(2) 破壊靱性試験によるシリコン単結晶薄膜の脆性破壊・延性破壊の体系化,および破壊メカニズムの解明,(3) シリコン単結晶薄膜内部の不純物が脆性・延性破壊に及ぼす影響の検証,の3つを軸にして研究を推進している.当該年度は (1) の 引張試験用マイクロデバイスの開発 を中心に研究を進めてきた.また TEM 内引張試験を実現するために,TEMホルダの設計を行った.以下に,各項目の詳細内容を記す.「引張試験用マイクロデバイスの開発」では,厚さがナノメートルオーダのシリコン試験片を有するシリコンデバイスを作製することを目的としている.これまでの研究では,試験デバイスをTEMに設置する際に試験片が壊れてしまうことが多かったため,これを解決するためのデバイス構造や,試験片周辺の薄膜構造について有限要素解析を行った.単純に試験片を増加して並列にならべ,予備となる試験片を用意したこと,またマイクロマシニングプロセスによる試験片の製作中に試験片に与えるダメージを軽減するためのビーム構造を取り入れたことなど,新規な構造に対する解析を行い,その結果をもとに,フォトマスクを製作した.「マイクロ引張試験用TEMホルダの作製」では,設計した引張試験デバイスをTEM内部で駆動し,センサ出力信号を取り出すことができるようなTEMホルダを製作する.具体的にはTEMホルダ内部に配線を施し,ホルダ先端にプローブチップを取り付けて,デバイスと電気的に接続できるような機構を加えたものにする.上記デバイスの設計に合わせて,TEMホルダを新たに設計した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題開始前より行っていた研究により,ナノメートルオーダの試験片を有する試験デバイスをTEMに設置する際に,試験片が壊れてしまうことがあるという問題点が挙がっていた.また,デバイスの製作時においても,エッチング時に起きるマイクロローディング効果により,試験片下部の除去すべきシリコンをエッチングで取り除くことが困難であったり,酸化膜の内部応力により微小試験片が壊れてしまったりしてしまい,デバイス作製の歩留まりが悪いことが指摘されていた.本研究では試験を効率的に実施するために,それらの問題点を軽減する新規デバイス設計とTEMホルダ先端治具の設計を最優先事項とし,デバイスやホルダの形状設計,解析等を念入りに行うこととした.試験片が壊れないような構造とすることと,TEM内引張試験を容易にすることはトレードオフの関係であり,互いの条件を必要最小限満たす点を見つけるために様々な解析を行ったが,そのために時間がかかってしまった.以上が,デバイスやTEMホルダは当該年度ですでに完成している予定が,フォトマスクの製作およびホルダの設計で終了した理由である.
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究課題最終年度であり,マイクロ・ナノメートル領域におけるシリコン単結晶の破壊特性に影響を及ぼす要因を明らかにするために,(1) 引張試験および破壊靱性試験によるシリコン単結晶薄膜の脆性破壊・延性破壊の体系化,(2) シリコン単結晶薄膜内部の不純物が脆性・延性破壊に及ぼす影響解析の2点を中心に研究を進めていく.(1) 引張試験および破壊靱性試験によるシリコン単結晶薄膜の評価 : 厚さ1 µm以下のシリコン薄膜の引張試験および破壊靱性試験を行い,シリコン材料の寸法に対する弾性・塑性変形や破壊靱性値変化などの境界領域を明確にする.加えて,加熱環境下における破壊靱性試験を行う.申請者らは,厚さ 4 µm の薄膜の破壊靱性値が,70℃以上で元の破壊靱性値の約2倍になることを報告してきた.一方でバルク材料のシリコンの遷移温度は600℃程度と報告されており,上記のような室温に近い温度で遷移が生じたのは薄膜の寸法効果ではないかと考えている.そこで,100 nm~数µm寸法に対して系統的に遷移温度を特定していき,シリコン単結晶の脆性・非脆性遷移を体系的にまとめていく.(2) シリコン単結晶薄膜内部の不純物が脆性・延性破壊に及ぼす影響解析 : シリコンに含まれる不純物の濃度が異なる試験片を用意し,これらの破壊強度や破壊靱性値などを測定する.破壊に影響を及ぼす要因の一つに,シリコンに含まれる不純物がある.本研究では,ボロンとゲルマニウムがドープされたシリコンを用い,不純物濃度の影響を実験的に明確にしていく.さらに,試験温度を室温~500℃程度までとし,不純物がドーピングされているシリコンの破壊特性を評価する.不純物の混入によって,高温で見られたシリコン薄膜の非脆性破壊や塑性変形現象がどのように変化するのかを明らかにする.
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題で用いる引張・破壊靱性試験用マイクロデバイスでは,SOIウェハを材料として用いる.また,SOIウェハの活性層を試験材料とするが,試験片の代表寸法はこの活性層厚さで決まるため,市販のSOIウェハを研磨し,試験寸法へと加工する必要がある.SOIウェハ購入およびSOIウェハの研磨加工を10月までの間に数回行う予定である.平成24年度では加熱試験を実施する.温度は室温から800℃程度までを予定しているが,引張試験・破壊靱性試験を行う装置はマイクロデバイス用に小型であるため局所加熱を行い,周囲温度は室温に保つ必要がある.そのため,加熱試験を開始するまでに(8月頃開始予定)冷却水循環装置を導入する.また本研究課題において,破壊や変形の様子を観察するために,SEMやTEM等の電子顕微鏡を用いる.電子顕微鏡の使用にあたっては,立命館大学内にある共用設備装置や,名古屋大学の共用装置を利用する予定である.これらの使用に対する,登録料および使用料が今年度は定期的に継続して必要である.さらに,名古屋大学では本研究に対するアドバイザーの中島正博助教との打合せを行う予定である.このため,定期的な国内旅費が必要となる.本年度は最終年度であることから,学会における研究発表も予定している.具体的には10月に開催される第29回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムと2013年1月に台湾で開催される国際会議「The 26th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems」の2会議での発表を目標としている.これらの会議への参加費として研究費を充てる予定である.
|