研究課題/領域番号 |
23760105
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研究機関 | 松江工業高等専門学校 |
研究代表者 |
新野邊 幸市 松江工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (20342545)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 金属間化合物 / 反応拡散 / クラッド / Ni3Al / NiAl / Ni2Al3 |
研究概要 |
Ni3AlやTiAlをはじめとするアルミナイド系の金属間化合物は、規則的な結晶構造と含有するAlに起因して高温強度や耐酸化性に優れている。しかしながら、塑性変形能に乏しく、薄板部材などを塑性加工で製造することは困難である。そこで、研究者は積層クラッドと熱処理を組み合わせた製造プロセスを開発した。即ち、異なる2種類の薄板状の金属を重ね合わせて熱処理を施すと、金属間の境界面には反応拡散により金属間化合物が生成する。これを加熱保持すると、均一な化学組成を持つ金属間化合物が生成するプロセスである。 H23年度はこのプロセスを適用して、Ni-Al系金属間化合物の作製を試みた。Alの融点の直上の温度域である973Kで加熱すると、Alは積層した板間に保持され、側面にしみ出すことがないことが判明した。これを等温保持すると、融液のAlとNi基材の間に反応拡散が起こり、Al-richなNi2Al3が生成した。しかしながら、Al-richな金属間化合物は著しく脆く、実用性に乏しい。そこで、973Kで加熱した試料を、1273Kで第2段階の熱処理を施すと、Ni2Al3がNiAlに変化することが分かった。さらに、これを1573Kで第3段階の熱処理を施すと、NiAlが部分的ではあるがNi3Alへと変化することが分かった。以上のことから、第1段階でAlの融点直上で加熱すると、Alの融液のしみ出しが抑制できる。さらに、加熱温度を上昇させると、Ni-richで実用的な金属間化合物が生成することが明らかとなった。これらの成果は、平成24年6月15日に開催される日本熱処理技術協会の春季講演大会で成果報告が決定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H23年度の本研究により、Ni-richで実用的なNi3AlやNiAlなどのNi-Al系金属間化合物が本手法を用いて生成できることが実証され、本製造プロセスの有効性が明らかとなった。従来は、割れなどの欠陥を生じることなく、如何に注意深く加工できるかに焦点が絞られていたが、本手法により、金属間化合物を加工することなく、金属間化合物の薄板が製造できることが実証できた。特に、Alのしみ出しを防ぐために第1段階では973Kの比較的低温で加熱すること、さらに温度を上昇させると、Ni-richな金属間化合物が生成し、加熱温度ごとに生成する金属間化合物が異なることなど、有意義な知見を明らかにすることができた。これらの成果はH24年度中に投稿論文としてまとめあげると同時に、国際会議で広く、国内外に情報発信することを予定している。また、試料サイズをより大きくし、引張試験片や曲げ試験片を採取し、機械的特性の評価が可能となるように、現在研究を進展させている。今後、得られた試料を用いて、従来法で作られた試料と特性が異なるか検証を行っていく。以上のことより、H23年度に得られた成果は学術ならびに工業的にも有用で、当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度はTi-Al系金属間化合物の中でも耐熱材料として期待されているTiAlの作製を試みる。TiAlが生成するにはTiAl3, TiAl2などのAl-richなアルミナイドを経由する。Ni-Al系アルミナイドの作製と同様に、TiAlが生成するまでの反応経路ならにびアルミナイドの成長挙動を把握することで、固相Tiと液相Al中の原子の拡散挙動を明らかにする。 Ti基材板とAl板には市販の圧延材を用いる。Ti基材板には厚さが0.5mmを用いるが、Al板には0.5mmの圧延材を研磨して厚さを変化させたものを用いる。試料片の寸法は10×15mmとして、3枚のTi基材板に2枚のAl板を挟み込む。酸化防止のためにTa箔で包み、サンプルクリップ(ビュラー製)で挟み込んで固定する。できた試料片は石英ガラスに封入して、真空排気後にArガスを充填して、所定の温度に加熱保持した横型環状炉に入れる。加熱温度はAlの融点以上の温度である973Kから1473Kの温度範囲に設定して、加熱時間は5minから24hまでとする。 この他、積層クラッド材を作製する際に、油圧ジャッキ式プレス機を用いて、予備加圧した試料を作製する。負荷荷重を10MPaから200MPa程度まで変化させ、圧縮荷重とアルミナイドの生成過程ならびに成長挙動への影響を把握し、加圧式積層クラッドと無加圧式積層クラッドの違いを明らかにする。以上の研究により得られた成果を論文としてまとめ、成果報告を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究室では、フィルム撮影とその現像により顕微鏡写真を作製しているため、実験作業が長期化する、現像の失敗による無駄が多いなどの課題がある。そこで、H23年度の設備備品費によってCCDカメラ付属の顕微鏡用画像記録装置を導入して、作業の効率化を進めたと同時に、現像液等の廃液処理の中止に伴う環境負荷の低減を図った。 そこでH24年度は原材料などの消耗品を研究費により購入する。原材料であるTi板, Al板を用意する。熱処理の工程では酸化防止のためのTa箔と試料を封入する石英ガラスを用意する。観察試料の作製のため、研磨紙、琢磨布のなどの研磨機に付属する消耗品を用意する。走査型電子顕微鏡に付属する元素分析装置は検出器を液体窒素で冷却する方式であり、年間で10回程度の分析ができる容量を購入する。さらに、成果報告ならびに最新の研究情報を収集するため、国内旅費を計上している。
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