高強度鋼では介在物を起点とした内部破壊が生じ、ギガサイクル疲労(疲労限の消滅)が生じる。この場合、疲労強度を支配する主な因子は介在物寸法であることが明らかになりつつあるが、疲労強度を定量的に推定するためのモデリングは不完全である。このようなモデリングを行う際にはき裂伝ぱ支配説に基づく事が合理的であるが、き裂伝ぱ支配説を支持する具体的な証拠は得られていない。このような背景から、本研究ではき裂伝ぱ支配説の実証を目的とした。より具体的には、ナノビーチマーク法という新しい内部き裂の解析手法を確立することでき裂伝ぱ支配説の実証を目指す。平成23年度には最適な試験条件の探索によるナノビーチマーク法の確立を行い、平成24年度にはき裂伝ぱ支配説の実証を目指す計画である。 本年度は前述の研究計画に基づき、最適な試験条件を探索し、ナノビーチマーク法の確立を行った。ここでは素材の溶解方法から見直しを行ったが、特殊溶解により介在物寸法のばらつきが少ない、最適な素材が得られることが分かった。また、熱処理についても複数の条件で予備試験を行い、最適組織の探索を行った。熱処理条件については最適組織が得られる2条件を特定し、試験片作製の目途を立てた。その後、種々の条件での変動荷重試験を行い、ビーチマークの解像度を向上させるための条件探索を行った。変動荷重試験は複数のパラメータの組み合わせとなるため試験条件は無数に存在する。そのため、条件探索のための予備試験には100本以上の試験片を要した。その結果、内部破壊破面の起点付近に電子顕微鏡で識別可能なビーチマークを刻むことに成功した。ただし、ナノレベルの解像度は得られていないため、次年度にかけて更なる条件探索を行う必要がある。
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