研究課題/領域番号 |
23760126
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石田 忠 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (80517607)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 超潤滑 / TEM / MEMS / フラーレン / グラファイト |
研究概要 |
研究代表者が今まで構築してきた微小電気機械素子(MEMS)とTEMを組合せた実験系を用いて、グラファイト-フラーレン-グラファイト系の摩擦実験を行い、超潤滑時のフラーレンの挙動を観察する。本研究で用いるMEMSはグラファイトで覆われた対向針を備えており、静電アクチュエータにより対向針の接触と摩擦を可能とする。対向針表面のグラファイトにフラーレンを配置し、対向針を押し付けることで、グラファイトの間にフラーレンを挟み込むことができる。この状態で摩擦実験を行うことで、超潤滑を発生させ、フラーレンの挙動をTEMで直視観察することが可能となる。グラファイト-フラーレン-グラファイト系の摩擦試験時のフラーレンの挙動をTEMで直視観察するためには以下の3つの要素技術が不可欠である。1.対向針へのグラファイト膜の成膜:グラファイトで覆われた対向針は、集束イオンビームを用いた化学気相法により堆積したダイヤモンドライクカーボンにダメージを与え、アニールすることで形成することができる。2.グラファイト表面へのフラーレンの付加:グラファイト表面にフラーレンを付加するには、蒸着法を用いる。3.フラーレンのTEM直視観察:TEM直視観察のためには金属内包フラーレンを用い、高いコントラストでの観察を可能とする。グラファイト-フラーレン-グラファイト系の超潤滑時のフラーレンの挙動を観察することで、実験的に本系の超潤滑のメカニズムを確定する。従来のシミュレーション結果からはフラーレンの回転運動が超潤滑のメカニズムであると言われているため、フラーレンの回転運動に注意して観察を行う。実験から詳細なフラーレンの挙動を確認した上で、シミュレーションとの比較を行う。実験とシミュレーションを重ね合せることで、フラーレンの動きと摩擦力の関係を明らかにし、それにより超潤滑メカニズムを完全に解明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、1.グラファイト膜の成膜の問題と2.フラーレンの付着の問題という2つの問題点のため、本研究はやや遅れていると判断した。1.グラファイト膜の成膜の問題:MEMS対向針先端に集束イオンビームを用いた化学気相法によりダイヤモンドライクカーボン(DLC)ナノピラーを形成した。ナノピラーを切断し450℃にて真空環境下でアニールしたところ、ナノピラーに芯部分に存在するGaが端面から滲みだしDLC/Ga球を形成した。一旦DLC/Ga球を室温まで冷却し、その後再び650℃で真空アニールした。これにより、GaがDLC/Ga球から蒸発し、DLC球が得られた。このDLC球表面にグラファイトが形成されるはずであったが、透過電子顕微鏡や電子線エネルギー損失分光法などを用いてもグラファイトの存在を確認することができなかった。2.フラーレンの付着の問題:フラーレン分子を対向針間に付着させようと1.まぶす方法、2.真空蒸着法を用いて試みた。1.単にフラーレンをMEMSにまぶすだけでは対向針間にフラーレンの存在が確認できなかった。2.TEM観察においてフラーレン由来と考えられる格子構造が確認できたが、しばらくすると格子構造が確認できなくなった。フラーレンはやはり小さく炭素原子で形成されているため、コントラストがつきにくく観察が難しいことがわかった。また、格子構造が観察できた時間はせいぜい1分以内であったため、実験をするのに十分な時間が確保できない問題も明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は「現在までの達成度」でのべた問題を解決し、グラファイト-フラーレン-グラファイトの摩擦実験を行う。グラファイトの成膜に関する問題は、650℃の真空アニールでグラファイトが形成するはずであったが、その存在を確認できなかった。本グラファイトの形成は化学反応でありアニール温度を上昇すればより成膜しやすくなる。そこで、グラファイトの成膜を促進するため、アニール温度をより高温で行うことにする。フラーレンの付着に関しては、現在の手法に加えてエレクトロスプレー法を用いる。それぞれの手法の中からより本研究に適した成膜方法を選定する。さらにフラーレンの可視化を容易にするために、以下の2つの対策を実行する。観察が困難な理由は電子線照射に伴うフラーレンへのダメージとコントラストが低いことが挙げられる。電子線照射に伴うフラーレンへのダメージの問題に対しては、低加速電圧の電子線を用いることで対応する。コントラストが低い問題に対しては、金属内包フラーレンを成膜することを試みる。上述の研究方針により問題を解決し、摩擦実験を行い、グラファイト間のフラーレンの挙動を観察し、超潤滑機構の解明を行う。しかし、これらの手法で問題が解決できない場合も考えられる。その際は、フラーレンの回転運動の代わりに、Ga球の回転運動を解析する。フラーレンもGa球もナノスケールの球体であることに変わりはなく、Ga球を挟んでの摩擦実験をすれば、球体の回転運動が実現する。これにより、ナノスケールの球体の回転運動が観察でき、フラーレンの場合と類似した現象が観察できると期待する。これにより、回転運動による低摩擦機構の解明につながることは間違いなく、学術的・産業的に価値の高い成果が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度はグラファイトの成膜やフラーレンの付着法の確立し、摩擦実験を行う。そのため、MEMSデバイスを大量に製作し、フラーレンの回転運動を観察する予定である。そこで、MEMSデバイスのためのSOIウエハやフラーレンなどを購入する。さらに観察後の動画解析では微小な運動を定量的に解析する必要があるため、動画編集や動画解析のためのソフトウェアを購入する。
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