研究課題/領域番号 |
23760128
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
古賀 毅 山口大学, 理工学研究科, 准教授 (30431787)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 設計工学 / システム工学 / 開発マネジメント / 材料力学 |
研究概要 |
近年,人工物に対して要求される機能の高度化・複雑化により,設計で取り扱う情報が加速度的に高度化・複雑化している.自動車や航空機・電子機器に代表される,機械・回路・ソフトウェアから構成される人工物は,複合型製品と呼ばれる.従来,設計者同士の調整で問題を発見し排除する,という「すり合わせ型の開発」が行われているが,この複合型製品を設計開発する方法として,すり合わせに過度に依存した旧来の開発方法では,限界に来ているのではないか,という声が現場から聞かれる状況にある.そこで,複合型製品をモデル化し,モデルを用いて開発を効率化する,というモデル駆動型の開発マネジメントの研究を進めている.現在,複合型製品(ソフトウェアを含めた人工物)を統合的に記述可能な情報モデルは,存在しない状況である.個別の設計情報モデルは存在するものの,それらは互いに連携していない状況にある.このため,それぞれのモデルはバラバラで,全体を把握できないという問題があり,これらの境界部分で不具合が発生している状況にある.そこで,機械・回路・ソフトウェアの設計情報を,統合化された形で陽に記述するシステム・モデル(複合型製品の設計情報モデルと呼ぶ)を提案し,実際にモデリングが可能なシステムを実装し検証した.この統合化モデルは,以下に示す3種類の設計情報を記述し,統合したモデルとして実装している. (1)実体と接続構造,および特性パラメータの依存関係を表現する,構成のモデル(機械の構成に相当)(2)モノの流れを,入出力関係と変換機能によって表現する,フローのモデル(回路や系統に相当)(3)状態と遷移から構成する動的な事象を表現する,システムの挙動のモデル(ソフトウェアに相当)以上の(1)~(3)に関し,合計10編(Journal 1件,査読つき国際会議4件,国内会議発表5件)の論文を出版する,という研究成果を得ている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成23年度の計画は,機械・回路・ソフトウェアの統合モデルの構築であった.具体的には,複合型製品を表現可能なモデルを構築し,実際に精緻な統合モデリングが可能なツールを試作することが目的であった.達成度としては,主にソフトウェアと機械を表現可能なSysMLと,回路を中心に表現可能なModelica言語に準拠し,研究代表者が提案する段階的なモデリング手法を織り込んだツールを開発し,その内容を国際会議の論文として発表できた.よって,平成23年度の研究は,目的に照らして計画通りに進捗したものと考えている.また,平成24年度以降の計画として,複合型製品の資産化支援を予定している.平成24年度の研究内容を,平成23年度から前倒しで取り組んだ結果,Journalを1編アクセプトし,2編投稿済みとするなど,計画を上回る成果を得ている.計画書に記載したIBMとの統合モデルの仕様策定に関する会議は,2ヶ月に1度の開催予定であったが,更なる緊密な連携を図るため,電話会議やスカイプなどといった手法を活用し,実際には2週間に1度の頻度で実施した.これにより,計画以上の成果となっているものと認識している.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降の計画として,複合型製品の資産化支援を予定している.初年度に開発した複合型製品のモデリング・ツールを利用して,複合型製品のプラットフォーム化を検討する手法を構築し,ツールとして実装することを取り組む.特に,研究代表者が特許を保有する,製品ファミリの設計支援法を用いて,複合型製品の共通モジュールを発見し,複合製品群(製品系列,製品ファミリ)の構成を適正化する手法を構築することを試みる.さらに,試作した複合型製品を表現可能なモデルを構築し,実際に精緻な統合モデリングが可能なツールを高度化する.主にソフトウェアと機械を表現可能なSysMLと,回路を中心に表現可能なModelica言語は,それぞれ多様な実装形態で産業界において活用されはじめており,たとえばハイブリッド自動車の駆動システムや,フルビークル・ダイナミクスモデルの開発などといったように,具体的な成果が出始めている.これらの成果は,機械学会では1D-CAEと呼ばれる手法へ体系化し,アカデミックな研究教育への展開が議論されている.そこで,これら最新技術適用事例を取り込み,アカデミアとして体系化し,展開可能とすることを視野に入れて取り組む.たとえばModelica言語に準拠するSimulationXや,MapleSIMなどの実装を行う企業と連携し,開発システムとの連携,事例の蓄積と応用展開,教育への活用など幅広く議論し,将来の可能性を模索したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度以降の計画として,主に複合型製品のプラットフォーム化による資産化支援のソフトウェア実装,および研究成果の発表・印刷費を予定している.具体的な支出予定項目は,以下の通り.(1)研究成果の公開 論文投稿・印刷費 30万円,国際会議参加費 50万円(Design Engineering Workshop, 4th CIRP conference on Industrial Product Service Systems, 日本機械学会 第22回設計工学・システム部門講演会,Asian Conference on Design and Digital Engineering)(2)複合製品の資産化ツール実装費 ソフトウェア購入費50万円(Smalltalk, SimulationX, MapleSIM, AMESim)(3)その他:印刷費,書籍費用,TA謝金 10万円
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