研究概要 |
有機分子吸着膜による低摩擦機構への転換として,低速度・高荷重などの厳しい摺動条件において吸着膜の脱離・配向性の消失を防止し優れた摩擦低減効果を発現させるために,多官能性高分子化合物の分子設計および表面粗さ付与によるマイクロ流体効果の発生とのマッチングにより,高分子の吸着挙動を制御し,高分子吸着膜による低摩擦メカニズムの構築を最終目的とする. 平成23年度では,多官能性高分子の多点吸着挙動を評価し,摩擦低減効果を発揮するための最適な高分子鎖構造モデルを提案した.最終年度の平成24年度では,表面粗さとして異方性粗さを導入し,多官能性高分子として極性基を多数有するポリメタクリレート(PMA, Polymethacrylate),および直鎖脂肪酸や直鎖アルコールなど直鎖アルキル基と1つの極性基を有する直鎖有機化合物をそれぞれ使用し,極低速を含む広い速度範囲における摩擦試験を実施した.各々の摩擦特性を評価した結果,異方性粗さの直交方向粗さ(直交粗さ)にて顕著な摩擦低減効果が発現し,その効果は極性基の種類や数により異なることが明らかになった.直交粗さでは,粗さ突起間に停滞する潤滑油が突起先端接触部に適度に供給され,集中接触の増大に伴う潤滑油のくさび作用により微視的な流体効果(Micro-EHL効果)が発生し,吸着膜を補助する付加的な荷重支持効果であると考えられていたが,本実験結果から吸着膜の吸着性や状態に起因する負荷圧も同時に発現していることが示唆された.この負荷圧を吸着膜の状態変化に基づく浸透圧現象によるものと結論付け,直交粗さにおける摩擦低減効果は,粗さに起因する微視的な流体効果の発生と,高密度吸着膜の浸透現象よる荷重負荷圧の発生という双方の性質の相乗作用により発現するというメカニズムを提案した.
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