研究課題/領域番号 |
23760141
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
川口 雅弘 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, その他部局等, 研究員 (40463054)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | DLC / PBII&D / UBMS |
研究概要 |
今年度は主として,PBII&D法とUBMS法を組み合わせた新規装置のセットアップ,装置の動作確認を兼ねた初期的成膜試験,成膜したDLC膜の材料的・機械的特性評価を行った.その結果,成膜パラメータを適切に制御することで,水素含有量(0~40%),硬さ(5~40GPa)などの制御が可能であることを確認した.PBII&D成膜条件における高パルス電圧を3~20kVまで変化させて成膜したところ,水素含有量や硬さだけでなくDLC膜のラマンパラメータのひとつであるGピークも変化することを見出した.また,水素フリーDLC膜に水素を~8%程度注入した場合も,同様の傾向を得ることができた.水素含有量の増加に伴い硬さおよびGピーク半値幅が減少することから,DLC膜中のsp2フェイズの増加やsp3フェイズの減少が示唆される.一方,加熱によりDLC膜中の水素含有量が減少し(水素脱離),Gピーク半値幅が減少することを確認していることから,成膜時のDLC膜成長過程と,加熱によるDLC膜の構造変化過程(脱離反応)は,どちらも水素が絡んだプロセスではあるがメカニズムが大きく異なることを今後十分留意する必要がある.ボールオンディスク試験機による摩擦摩耗試験を行ったところ,DLC膜の摩擦特性(摩擦係数)におよぼす高パルス電圧の影響が小さいことを確認した.また,膜の摩耗特性(比摩耗量)におよぼす高パルス電圧の影響が大きいことを確認した.これらの結果は,摩擦摩耗メカニズムにおよぼすDLC膜の水素含有量,硬さの影響,という課題を顕在化するものであり,今後十分に検討する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標の一つである「DLC膜の構造変化におよぼすイオン注入成膜の影響の解明」については,実験データがそろってきており,現在構造変化におよぼすイオン注入成膜の影響の定量化を行っている.得られた知見より,水素含有量の制御がキーテクノロジーのひとつであることを見出しており,概ね順調に進展していると考える.「PBII&D/UBMS複合装置によるDLC膜の摺動メカニズムの解明」についても,実験データがそろってきており,摺動メカニズムについて検討している.得られた知見より,従来から提唱されている水素終端の影響は大きく,注入成膜における水素含有量の制御がやはりキーテクノロジーとなりうることを見出しており,概ね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
DLC膜の傾斜構造化,あるいは積層構造化を視野に入れつつ,摺動表面制御を達成する高機能DLC膜の開発に従事する.本研究テーマは総じてパラメータが多いため,申請書提案時に述べた通り,今後も水素含有量およびイオン注入効果の2点に絞って検討を進める予定であるが,DLC膜のsp2,sp3の割合について定量化することで,各種評価結果の包括的整理が簡便になると考えられるため,sp2,sp3の割合の定量化についても今後検討する.DLC膜のsp2,sp3の割合は,TEM/EELSやNEXAFSを用いて定量することが一般的であるが,どちらも簡便に評価できる手法ではない.本研究では,XPSおよび固体NMRによる半定量評価を主軸に置き,必要に応じてTEM/EELSあるいはNEXAFSを用いた構成を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
試料基板などの各種消耗品の購入に加えて,NEXAFSやMSE試験などの外注試験を予定している.また,学会などにおける成果発表,成膜技術に関する現地調査などを予定している.
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