研究課題/領域番号 |
23760146
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杵淵 郁也 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30456165)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 流体工学 / 希薄気体力学 / 分子線 |
研究概要 |
ナノスケール三次元構造で修飾された表面における気体分子の散乱機構を明らかにし,マイクロ・ナノデバイス内部における気体流れの制御のための表面設計に指針を与えることを目的として,本年度は,垂直配向単層カーボンナノチューブ膜におけるヘリウム分子の散乱挙動を分子線散乱実験とモンテカルロシミュレーションにより解析した. 分子線散乱実験では,垂直配向単層カーボンナノチューブのフリースタンディング膜を試料として用いることにより,基板と気体分子の相互作用を排除した条件下で計測を行うことが可能となり,カーボンナノチューブ膜と気体分子の相互作用に関してより明解な情報が得られた.さらに,膜厚の異なる試料に対する計測から,入射分子の多くは膜表層部のランダム層で反射されることが明らかになった.単層カーボンナノチューブと気体分子の1回の衝突では十分なエネルギー交換が起こらないことが分子動力学シミュレーションにより示されており,本実験結果と併せて考えると,入射分子の大部分は膜表層のランダム層との相互作用により十分にエネルギー適応して散乱されているものと示唆された. 上記に加えて,膜内部における気体分子の拡散挙動がエネルギー適応過程に与える影響を明らかにするために,自由分子流のモンテカルロシミュレーションによる解析を行った.膜表層部のランダム層を模擬する構造として,カーボンナノチューブバンドルに対応する円柱をランダムに並べた構造を作成し,気体分子の拡散挙動を調べた.その結果,膜内部において複数回衝突することに起因するエネルギー交換の積み重ねが高いエネルギー適応を実現していることが示され,実験結果と整合性のある結果が得られた. また,加熱機構を備えた分子線生成ノズルを導入し,生成される分子線の特性評価を行った.本装置を用いることで水分子線が安定して生成できることも確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
垂直配向単層カーボンナノチューブ膜における気体分子の散乱機構に関して,フリースタンディング試料を用いた分子線散乱実験とモンテカルロシミュレーションによる解析を合わせて検討を進めることで,膜内部における気体分子の拡散挙動がエネルギー適応に与える影響について明確な理解が得られた.固体原子との質量差に起因して,固体表面に適応しにくい傾向のあるヘリウム分子に対しても高いエネルギー適応係数を示すことから,マイクロ・ナノデバイス内部における固-気界面の熱輸送を促進する手法として,垂直配向単層カーボンナノチューブ膜による表面修飾が有効であると予想され,工学応用上有用な結果であるといえる. 以上の理由により,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
固体高分子形燃料電池やマイクロ・ナノデバイスの研究開発において,水分子と固体表面の相互作用に関する知見が必要とされていることを踏まえ,三次元ナノ構造で修飾された表面と水分子との相互作用に重点を置いて研究を推進する.水分子線の生成に関しては,本年度導入した加熱ノズルを用いることで,十分な分子線強度が確保できることを確認している.今後,自己組織化単分子膜(SAM)やLangmuir-Blodgett(LB)膜作成に関して専門知識を有する研究者と連携して,表面修飾に用いる三次元ナノ構造の検討を進める予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究発表のための旅費等の他,表面試料作製のための消耗品および真空配管部品等の物品購入を予定している.
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