研究課題/領域番号 |
23760149
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
倉橋 貴彦 長岡技術科学大学, 工学部, 准教授 (00467945)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 計算物理 / シミュレーション工学 / マイクロ・ナノデバイス / マイクロマシン / 流体工学 |
研究概要 |
H23年度では,Y字合流・分岐型マイクロチャネル内二相流における解析プログラムの構築,および,合流点・分岐点を含む周辺の領域について解析を行うプロセスの構築を行った.本研究で対象とするマイクロ化学チップ内流路においては,計算コストを考えると3次元流れに比べ,2次元モデルの方が適していると考え,チップ表面の流路形状に対して2次元解析を対象とすることとした.基礎方程式として,非圧縮粘性流体に対するナビエ・ストークス方程式,連続式,および,二相流における界面の進展を表すために輸送方程式を使用した.基礎方程式であるナビエ・ストークス方程式,連続式より圧力ポアソン方程式を導出し,流れ場の計算を行うナビエ・ストークス方程式,圧力場の計算を行う圧力ポアソン方程式を分離して解を得る分離型解法を適用した.離散化手法としては,有限要素法を用いて離散計算を行った.この時,流速と指標関数の補間に気泡関数要素を用いたが,それでも数値安定性が十分でないことが知られているため,数値安定性を保つために安定化制御パラメータを導入した.また,二流体界面について界面張力を適切に表すため,CSFモデルによる体積力(界面張力)を導入した.この解析プログラムに関して,計算結果について厳密解との比較を行い,粘性流体による流れ場についておおむね正しい結果が得られることを確認した.この解析プログラムを使用し解析を行うにあたり,実際の現象の確認のため,上流側Y字合流部・下流側Y字分岐部に対して,Y字合流・分岐型マイクロ化学チップを用いて界面観察を行った.この際,流動中に混合しない純水と酢酸エチルを用いて観察を行った.同条件において解析計算を行い,観察結果と比較することで,解析においておおむね正しい結果を得られることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H23年度においては,実験と数値解析の比較に主眼をおき,シリンジポンプによる送液における流量条件を変え,デジタルマイクロスコープによる界面観察を行い,流況解析結果との比較を行った.また,送液の時系列波形を計測するために,マスフローメータ-を購入し,流量計測および周波数解析を行った.当初予定の研究計画はおおむね達成されているものと考えている.研究により達成した内容を以下に整理する. 本研究で対象とするマイクロチャネルは,流路幅に比べて流路長が非常に長いものになるため,全体を表すモデルを作成しシミュレーションを行うことは困難を極める.そこで,マイクロチャネル内の下流側分岐点を含む周辺の領域についてのみ解析を行うために,二流体平行流部分の界面位置の推定式を導出し,上流側Y字合流部の解析を行うことなく下流側のY分岐点のみ計算を行うことが可能となった.この推定式については,観察結果,解析結果との比較により,下流側Y字分岐部における解析に計算結果を反映可能であることを確認した.また,下流側Y字分岐部に関して,上流側Y字合流部と同様に実験観察を行い,実際の現象の確認を行った.実験と同条件における解析では,境界条件として与える界面位置に,推定式による結果を反映した.また,解析モデルにおけるメッシュパターンやメッシュ間隔による計算精度の検討も行った.最も精度良く計算結果が得られたモデルにおける解析結果について,観察結果との比較によりおおむね正しい結果を得られることを確認した.また,下流側Y字分岐部においては,「物性や界面張力の影響により,界面がマイクロチャネル中心線上にあっても界面安定性が得られるとは限らないということ」,「流れ方向に対し流路が広がる形状を対象とする場合,解析計算を行う際に流路形状の拡大部において数値不安定が起こりやすいということ」がわかった.
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今後の研究の推進方策 |
H23年度は,定常流に関する二液二相流に対してマイクロチャネルY字分岐部における界面安定性を対象として検討を実施したため,H24年度は,界面振幅を伴う流れにおけるマイクロチャネル内二液二相流の問題に対して界面の安定性に関する検討を行うことを予定している. 界面安定性の理論的研究として「T. FUNADA and D. D. JOSEPH, Viscous potential flow analysis of Kelvin-Helmholtz instability in a channel, J. Fluid Mech., (2001)」の研究が挙げられる.この研究は,非粘性,非圧縮,渦なしの流れ場における二相流を対象として,上・下壁面における境界条件・自由表面での力学的条件,自由表面での運動学的条件より分散関係式を誘導し,界面波形の波数と臨界相対流速(各流体の流速の差の臨界値)の関係を整理したものである.また,有限要素法に基づく流体の安定性に関する検討としては,「YAN DING and MUTSUTO KAWAHARA,Secondary Instabilities of Wakes of a Circular Cylinder Using a Finite Element Method, Int. J. Compt. Fld. Dyn., (2000)」が挙げられる.この論文は,流れ場の支配方程式に対して,有限要素法を適用し,未知変数の解を指数関数により表すことで固有方程式を誘導し,固有値解析の結果から流れ場の安定性を論じたものである.上記のような流体の安定性を論じた論文を参考にし,実験において界面波形を捉え,周波数解析を行った場合,二相流の界面波形より流速(流量)設定の臨界値の予測法について考察を行う予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は主として,数値シミュレーションによる界面安定性の検討を予定しているため,スーパーコンピュータのレンタル,あるいはワークステーションの購入を考えている.シミュレーションに伴い,実験を行う際は実験に要する備品・消耗品を購入する予定である.また,7月8日~13日にブラジルにおいて開催される計算力学関連の国際会議「10th WORLD CONGRESS ON COMPUTATIONAL MECHANICS (WCCM 2012)」に参加し,研究成果の発表を予定している.発表予定のタイトルは,「Study on two phase flow in micro channel based on experiments and numerical examinations 著者:Takahiko Kurahashi, Reika Hikichi and Hideo Koguchi」である.また,9月9日~12日に開催される「日本機械学会2012年度年次大会」において研究成果の発表を予定している.この学会での発表予定タイトルは「安定化気泡関数有限要素法によるマイクロ化学チップ内Y字合流・分岐部における液液二相流解析,著者:倉橋貴彦, 曳地玲香,古口日出男」である.また,昨年度の研究成果を日本機械学会論文集B編に投稿中であり,掲載費に研究費を充てる予定である.
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