研究概要 |
本研究課題の目的は,乱流の直接数値計算と非常に大多数の高分子鎖(ダンベルモデル)のブラウン動力学計算を連結したオイラー・ラグランジュシミュレーションコードを開発し,高分子と乱流の相互作用の詳細,及び乱流による希薄高分子溶液の劣化過程を明らかにすることである.劣化過程は,個々の高分子鎖が乱流によって強く引き延ばされる際に,鎖の切断過程を取り込むことで実現する.特に乱流のエネルギー散逸逓減といったマクロな統計量への劣化の影響をメソスケールのレベルから理解することを目指す. 最終年度では,高分子鎖の切断過程を取り入れたコードを用いて,劣化過程が乱流統計に及ぼす影響について解析した.4ビーズモデルが切断により2個の2ビーズモデルに変化する過程を導入し,切断条件を変化させて切断が生じる回数及び流れ場への影響を調べた.結果,比較的切断が生じやすい条件下において,乱流場のエネルギー散逸逓減はゆるやかに回復していき,逓減率の減少が確認された. 一方で昨年度の研究において,高分子鎖の弾性的性質が強く,流れ場が十分減衰した状態では,流体の運動エネルギースペクトルはべき則を示すことを明らかにした.これは「弾性乱流」と呼ばれる高分子溶液特有の乱流現象と非常に類似していることを議論した.そこで,粒子描像に基づく高分子鎖と流れ場の相互作用によって弾性乱流を発生させる並列計算を試みた.外場により定常な渦流れを生成し,そこに高分子を分散させると,流れ場は非定常化し,乱流状態に遷移する事を見いだした.このとき運動エネルギースペクトルはべき則に近い振る舞いをすることを見いだした.
|