研究課題/領域番号 |
23760164
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
板野 智昭 関西大学, システム理工学部, 准教授 (30335187)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 混層流 / 乱流 / 精密濾過 / クロスフロー |
研究概要 |
精密濾過膜による懸濁物質の膜分離工程において、乱流クロスフローによる濃度分極の抑制効果と堆積層剥離過程の微視的な動的メカニズムを、顕微鏡等光学機器を用いた観察から明らかにすることが、本研究の目的である。観察は(1)「膜に捕捉され堆積する懸濁物質の運動の3次元蛍光観察」と(2)「共焦点レーザ顕微鏡システムによる膜透過流のPIV計測」を予定していた。本年度は、精密濾過に関する技術情報の収集を目的として、国内外の流体研究者(神戸、秋田、香港、北米)との情報交換を行うとともに、(1)を実施するために必要となるコンパクトな流路の設計・試作を重ねてきた。試作流路における膜抵抗や圧力損失などの濾過特性を計測し、実験計測の再現性について確認作業も続けてきた。また、顕微鏡下において蛍光粒子の3次元的な運動を追跡するために、研究室に現有の共焦点レーザー顕微鏡システムの下に、今後、新たにピエゾアクチュエータ制御系を配備する必要があり、流路の設計(流路の軽量化を目指しつつ)と平行して今回の計測に適したピエゾアクチュエータ制御系の選定も行ってきた。ピエゾアクチュエータ制御系には、光軸方向に、対物レンズを振動させるタイプと、観測対象となる流路を振動させるタイプがあるが、本研究においては流路の重量やサイズの制限が強いため、後者よりも前者を用いる方が現実的であることが分かってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的達成に必要となる2つの観察形態(1)「膜に捕捉され堆積する懸濁物質の運動の3次元蛍光観察」と(2)「共焦点レーザ顕微鏡システムによる膜透過流のPIV計測」は、まだ十分に高い再現性をもって実施されていない。申請当初は本研究に割けると想定していた時間が、学内における教育や学科運営事務などで、特に2011年度前半に圧縮されてしまったことが、最も大きな原因として挙げられる。少ない研究時間を割いて、流路の設計・試作を秋から開始したが、申請当初予定していた5つの小計画のうち、2011年度末までに完了できたのは2つであった。濾過膜の膜面には数気圧程度の圧力をかける必要があるが、顕微鏡のステージ上に、高圧の原水に耐えれるだけの配管と濾過ユニット(高圧ポンプから送られる原水のリザーバー、濾過膜、透過流の配管からなる)を設計することはできた(現有の顕微鏡は倒立型なので、顕微鏡のステージ上には比較的広い空間が確保できる)。また、研究費が2段階に渡って交付が行われたことにより、ピエゾアクチュエータ制御系の選定作業が遅れ2011年度は交付額全額を年度内に活用するに至らなかった。2012年度前半は、学内における研究以外の負荷がやや少なめであるので、この間にこれまでの遅れを取り戻したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2011年度後半より行ってきた試作流路における濾過特性の計測を今後も繰り返し行い、実験計測の再現性を高めるために必要な因子を経験的に探索する。また、得られた因子は、濾過膜や流路形状など制御可能なパラメータ内で流路の改良にフィードバックすることができるであろう。クロスフロー流量および透過流量と膜間差圧の時系列計測を行い、クロスフロー流速と透過流量の関係を得る。特にクロスフローが乱流に遷移した場合の透過流量の急激な変化と履歴について調べる。これらについては、夏ごろまでに完了することが目途が立っている。また、現在流路に取り付けられている強化ガラスは、今後より耐圧性が高く、光学系観察に適した十分に薄いガラス窓に交換し、対物レンズ型のピエゾアクチュエータ制御系の選定を進める。これらにより堆積層の非一様性や膜細孔の閉塞過程の可視化を行う。2012年度夏までにこれらの作業を完了させ、秋より学術雑誌等への成果発表を目指す。また関連する研究成果を8月に中国で開催予定のICTAM2012にて発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、試作流路の改良、動的圧力損失計測に必要となる差圧計の購入、対物レンズ型ピエゾアクチュエータ制御系の購入、国内外の研究成果発表および情報交換等に必要な旅費に、研究資金を活用することを予定している。上述したように、本研究では初年度に、研究資金の大部分をピエゾアクチュエータ制御系の購入に充てるはずであった。しかしながら、研究費が春と秋の2段階に分けて交付されたことや、研究申請者の学内における研究以外のデューティが予想外に大きく予備研究が十分に進まなかったこと等が災いし、秋口からピエゾアクチュエータ制御系の選定作業は進めていたものの結局購入には踏み切らぬまま交付額の大部分が次年度に繰り越される結果となった。繰り越された額の大部分は、当初の予定どおりピエゾアクチュエータ制御系の購入に充てることを予定している。
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