研究課題/領域番号 |
23760165
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研究機関 | 大阪府立大学工業高等専門学校 |
研究代表者 |
山内 慎 大阪府立大学工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (70342524)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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キーワード | 固体高分子形燃料電池(PEFC) / 生成水自己管理型セパレータ / 金属射出成型法(MIM) |
研究概要 |
固体高分子形燃料電池(PEFC)における水管理は長期安定運転や性能向上の実現において重要な課題であり,申請者は付加装置が不要な生成水自己管理型セパレータを開発することを目的としている.本申請研究では,金属多孔質体で作成したセパレータにより,膜電極接合体(MEA)の湿潤維持のための保水性能および余剰水の排水性能を確認し,そのセパレータをスタック化して電池性能の向上を目指すものである.本年度は,カソード側の吸水・排水性能を有すガス流路パターンの最適化の課題について,主として金属多孔質体セパレータの性能評価を実施予定としていた.金属射出成形法(MIM法:Metal Injection Molding)により銅,ステンレス,チタンの3種類でJARI標準セル(日本自動車研究所,電極面積5cm×5cm)と同じセパレータを製作した.銅はPEFC内の強酸性雰囲気により酸化がひどく,チタンの場合にはセパレータの歪みが大きく,それぞれほとんど発電することができなかった.一方,ステンレスの場合にも歪はわずかに生じ,電池抵抗も機械加工品と比べて約2倍と高く,セパレータとしては改善の余地があり,金型設計や成形条件をさらに検討する必要があることがわかった.しかし,MIM法はもともと小型化に向いているためSUS316Lにより電極面積2cm×2cmで小型PEFCスタック用セパレータを製作し,5セルスタックで性能評価した.高電流密度域での電圧降下率が増加していることから,流路でのプラギングは生じていないものの運転時間とともに空気の拡散性が低下したことや,過飽和となった水蒸気がガス拡散層内で結露するフラッディングが生じている可能性がある.これより,流路形状や,水管理のために表面に多孔質体を有するセパレータに変更することで,フラッディングを解消する必要があり,MIM法ではこれらの要求に応えられると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
金属射出成形法(MIM法)で10セルスタック用の電極面積5cm×5cmのセパレータを製作し,電池性能を評価した.その結果,セパレータにややそりが生じたこと,電池抵抗が大きかった点を改善すべきであることがわかり,金型の再製作が必要になった.しかし,製作を依頼していた加工メーカがMIM事業から撤退したため,新たな加工メーカをお願いすべき状況になった.目標達成にはいくつかの新規の金型が必要になるが,研究実績の概要でも述べた小型MIMセパレータにより種々の改良点について検討することにし,金型製作のコストを抑えることで予算面をクリアーし,これより改良版の金型を製作する段階である.このため,設定していた研究目的に対しては,やや遅れている状況である.なお,研究実績の概要で述べた成果および試作した小型MIMセパレータにより構成したPEFCスタックの成果については論文に掲載され,謝辞にも本申請について記載している.さらに,研究成果を社会・国民に発信することを目的として,セミコンジャパン2011およびFCExpo2012において,小型PEFCスタックを実演展示させていただいた.一方,今年度の目標の一部であるスタック内部の可視化については,可視化専用のスタックおよびセパレータが完成しており,これから試運転を実施後に,各種運転条件におけるスタック内部の生成水挙動を把握する予定であり,こちらのテーマについてはおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,申請時点での予定通り,(b)生成水自己管理型セパレータのスタック化の課題に一部の課題について小型MIMセパレータに変更して取り組む.(b-1)金属多孔質体10セルスタック性能評価では,金属多孔質体セパレータを10セル積層し,スタック時の電池基本特性を把握するとともに,スタック運転時の評価法を確立する.(b-2)スタック内部の可視化技術の構築では,3セルスタックを用いて,両端セルおよび中央セルの実電池内部の可視化技術を構築する.スタック側面よりボアスコープの側面方向が見えるボアスコープを挿入すれば,ガス流路内部を見ることができる.なお,ガス流路だけでなくGDL表面上を近接撮影して,生成水挙動を把握する.(b-3)吸排水性能をもつセパレータのスタック化では,単セル実験で最適な結果が得られた吸排水性能をもつセパレータを10セル積層し,両端セルおよび中央セルにおける生成水挙動を把握するとともに,電池特性を把握する.(b-4)生成水自己管理型セパレータの運転条件の最適化では,生成水自己管理型セパレータを用いたスタックの最適な運転条件(温度,ガス供給配置,ガス加湿量等)を検討するとともに,寿命特性を把握して,実用化に向けた材料面の提案も行う.なお,これらの成果については論文への掲載を目指すとともに,セミコンジャパンやFCExpoといった展示会において実演展示を行い,社会・国民への成果発信に努める.
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度予算は申請課題が採択された当初,震災の影響により減額される見込みとの通知があったため,それに対応できるように2年分の研究計画の一部を入れ替えて,2年目で購入予定であった備品(ボアスコープ)を前倒しして購入し,その分,スタック試験用評価装置等を次年度に購入することにした.これは,本申請研究が当初計画通りに進まないときの対応で記したとおり,金属多孔質体セルを用いた際の生成水管理を優先した流路パターンによる電池性能に加えて,スタック時における各セルの電池性能と実電池可視化により得られる生成水分布とを対応づけてデータベース化するためにはボアスコープが必須であり,かつ,当初予定していたサイズのセパレータよりも小型にすることで,既存の評価装置の運転レンジぎりぎりのところで性能評価が可能であると判断したためである.消耗品やその他の予算はほぼ予定通り執行し,残額については各予算執行時の端数分のみである.次年度は未購入の評価装置等の購入と,いくつかのセパレータ製作費等とし,その他の費目については,学会発表(国内1回,国外1回)への旅費,参加費,国際会議用の外国語論文校正費(8ページ相当),論文投稿費(燃料電池分野)とする.
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