研究課題/領域番号 |
23760178
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩見 淳一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40451786)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 熱電変換 / 熱伝導 / 第一原理計算 / 格子動力学 / 分子動力学 |
研究概要 |
将来的な産業への発展を念頭に,毒性が低く,埋蔵量が比較的多いハーフホイスラー化合物やシリサイドなどを対象として密度汎関数法を用いた第一原理計算を行った.ここでは,排熱エネルギー回収への応用を念頭に,スケールアップが可能なバルク熱電変換材料をターゲットとした.なお,材料を選定するにあたっては,電子バンド構造や状態密度から熱起電力を計算し,緩和時間近似に基づいて電気伝導率を求めた.その上で,熱電変換性能指数を決定する物性の中で,一般的に制御性の高い格子熱伝導に着目し,主に解析的研究を進めた.特に,ハーフホイスラー化合物やシリサイドは比較的対称性が良く,軽量であることから,格子熱伝導率が高いことが性能向上に向けた課題となっている. まずは,原子間力定数を高次の非調和項まで求めることで,単結晶の格子熱伝導率を正確に表現するポテンシャル関数を構築した.次に,得られた原子間力定数を基に,非調和格子動力学を用いてフォノンの散乱解析を行った.具体的には,結晶の内部熱抵抗を支配する3-フォノン散乱プロセスに注目してフォノン散乱の素過程を確立論的に取り扱うことによって,フォノンモードに依存したフォノン緩和時間を計算した.さらに,フォノンの緩和時間近似に基づいたボルツマン・パイアース輸送方程式に入力することで,結晶の格子熱伝導率を計算した.これらの計算によって,単結晶の格子熱伝導率が正確に求まるだけでなく,フォノンモードに依存したフォノン輸送特性が求まり,格子熱伝導のサイズ効果を評価することが可能になった.以上の解析によって単結晶バルク熱電変換材料の格子熱伝導を第一原理に基づいて計算できるようになったことを受けて,その計算精度を検証するために,レーザーを用いた熱伝導計測系の構築も進めた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
単結晶バルク熱電変換材料の熱伝導解析が比較的早期にできるようになり,その計算精度を検証するために実験による熱伝導計測の構築に取り掛かった.
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今後の研究の推進方策 |
これまで開発した単結晶バルク熱電変換材料のフォノン輸送解析手法を改良して合金や界面の効果を取り扱えるようにし,非均一結晶系の計算を実現する.その上で,ゼーベック係数や電気伝導率計算と合わせて,統合的な熱電変換性能評価を行い,バルク熱電変換材料のデザインツールとしての有用性を示す.
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度開発した原子間ポテンシャルモデルを用いて分子動力学計算を行い,結晶合金のフォノンの緩和時間を計算する.分子動力学法を用いることによって,今年度の格子動力学を用いた方法では困難である合金や不純物などの複雑系の計算が可能となる.周期境界セル内での平衡分子動力学計算を行い,得られる位相空間情報を固有モードに投影する方法によって,フォノンモードごとの緩和時間を求める.申請者らが近年開発したスペクトル法と組み合わせることによって,比較的複雑な構造に対しても容易にフォノン緩和時間を求めることができる.このように,モードに依存した緩和時間を得ることで,材料の熱伝導率が計算できるだけでなく,フォノンの平均自由行程の分布を通じて,材料をナノ構造化してナノスケール間隔で界面を形成した場合の熱伝導特性が予測できる. さらに,ナノ構造界面でのフォノン散乱を考慮するために,界面でのフォノンの透過関数を分子動力学解析から抽出する.一般的な界面の分子モデルを構築し,フォノン・ウェーブパケット法を用いて透過関数を計算する.このようにして計算した,モード依存のフォノン緩和関数,格子動力学から計算したフォノン群速度や状態密度,フォノンの界面透過関数を合わせて,ボルツマン輸送方程式に組み込むことにより,ナノ構造を有する材料の統合的な熱伝導解析を実現する.ボルツマン輸送方程式は複雑な界面形状に対応できるようにモンテカルロ法によって解く.これによって,ナノスケール界面が熱・電気伝導に及ぼす影響及びその制御性に関して詳細に検討する.
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