研究課題/領域番号 |
23760178
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩見 淳一郎 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40451786)
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キーワード | 熱電変換 / 熱伝導 / 第一原理計算 / 分子動力学 / 格子動力学 |
研究概要 |
将来的な産業への発展を念頭に,毒性が低く,埋蔵量が比較的多いハーフホイスラー化合物やシリサイドなどを対象として第一原理に立脚した熱伝導解析を行った.加えて,近年目覚ましい性能向上が報告されている鉛テルル系材料に関しても解析を行った.今年度は特に,バルク熱電変換材料の熱伝導制御の基盤技術である合金化の効果に着目して,格子熱伝導率またはフォノン輸送物性の計算を進めた.手法として分子動力学計法を採用し,これまでの格子動力学を用いた方法では困難である合金や不純物などの複雑系の計算を実現した. まずは経験的ポテンシャルを用いてシリコンゲルマニウム合金の平衡分子動力学計算を行い,得られる位相空間情報を固有モードに投影する方法によって,フォノンモードごとの緩和時間を求めた.申請者らが近年開発したスペクトル法と組み合わせることによって,比較的複雑な構造に対してもフォノン緩和時間を求めることが可能となった.このように,モードに依存した緩和時間が得られることで,材料の熱伝導率を計算するだけでなく,フォノンの平均自由行程に依存した熱伝導能が計算できるようになり,熱伝導率低減に適した材料内の粒界の長さスケールをある程度予測できるようになった. 加えて,より正確な解析の実現を目的として,第一原理に基づいて求めた非経験的ポテンシャルを用いて,鉛テルル・鉛セレン合金の熱伝導率の計算を行った.正確な計算の実現により,実験との詳細な比較が可能となり,合金化による局所的な質量差の効果や,力場の変化の効果などを系統的に評価した.その結果,これまで無視されることの多かった,合金化による局所的な力場の変化の効果が熱伝導低減に大きく寄与することが明らかになった. さらに,材料の統合的な性能評価を行うべく,ゼーベック係数や電気伝導率の計算にも着手した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように,当初の目的として挙げた合金化材料の解析が実現されるとともに,バルク熱電変換材料の性能に対する示唆も得ており,研究は概ね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究で,第一原理に基づく非調和力定数の計算,格子動力学法/分子動力学法による単結晶/合金結晶のフォノン輸送物性および熱伝導率の計算を行うツールが出来上がっており,これらをフォノン・ボルツマン輸送方程式にシームレスに練成させることによって,本研究の目的の1つとして掲げるマルチスケール解析を完成させる. そのためには,界面におけるフォノン透過関数が必要となるが,本研究ではそれを,平衡分子動力学計算を用いて計算する.シリサイド系や鉛テルル系によって構成される2次元界面系の平衡分子動力学シミュレーションにおいて,界面を挟んだ2つの原子層の速度時系列の相互相関関数をもとに周波数や波数に依存したフォノン透過関数を計算する手法を適用する.これを様々な界面形状・特性に対して行うことによって,想定する材料を代表する界面のフォノン透過関数のモデルを構築する.このようにして計算した,モード依存のフォノン緩和関数,格子動力学から計算したフォノン群速度や状態密度,フォノンの界面透過関数を合わせて,フォノン・ボルツマン輸送方程式に組み込むことにより,ナノ構造を有する材料の有効熱伝導率の解析を実現する.なお,ボルツマン輸送方程式は複雑な界面形状に対応できるようにモンテカルロ法によって解く.また,解析結果を対応する実験結果と比較することによって,計算精度の検証も行う. 加えて,ゼーベック係数や電子の平均自由行程分布および累積電気伝導率も併せて計算することによって,材料の統合的な材料性能評価を行えるようにし,ナノスケール界面が性能に及ぼす影響及びその制御性に関して検討する. 以上によって,可能な限り原理原則に基づいたバルク熱電変換材料のデザインツールを構築し,その有用性を示す.
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は,研究が進展するにつれて必要となる計算機端末の補充や,計算精度を検証するために構築したレーザーを用いた熱伝導計測系を改良するための光学部品等に費やす.また,これまでにも増して積極的に学会発表を行い,特に材料合成の研究者との活発な議論を通じて,本研究で開発するバルク熱電変換材料デザインツールの有用性を高める.
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