研究課題/領域番号 |
23760179
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
千足 昇平 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50434022)
|
キーワード | 炭素ナノチューブ / ポリマー / 複合材料 |
研究概要 |
単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotube,SWNT)の合成技術およびポリマー等との複合材料化の向上およびそれらの分析・解析を進めた.SWNT合成においては特に基板表面に水平配向成長したSWNTについて,その配向密度について検討を行った.SWNTを高密度に水平配向成長させるには,ナノチューブ間の強いファンデルワールス力によりお互いに絡み合うことを防ぐことが重要であることが分かった.その為合成時の圧力や温度を下げることで,密度が向上することが明らかとなった. ポリマーとの複合材料化技術においては基板に垂直に配向成長したSWNTに対し,その配向性を保持する技術を検討した.疎水性なポリマーであるPDMSを用いゆっくりと垂直配向SWNT膜に含浸させることで,複合材料化前後でほぼ同程度の垂直配向性を持つSWNT-PDMS膜を作製することに成功し,その分析をラマン散乱分光法により詳細に行った. また,100℃前後にガラス転移温度を有する分子性ガラスフィルムを用いることで熱リソグラフィーを行った.分子性ガラスフィルムをコーティングした水平配向SWNTに,電圧をかけると電流が流れる金属性ナノチューブのみがジュール発熱し温度が上昇する.するとその周囲の分子性ガラスの流動性が上昇,表面張力により局所的にナノチューブが露出する.このことを利用し,金属性ナノチューブのみの選択的除去を行った.この際,半導体・金属ナノチューブの区別はスキャニングラマン分光装置を用いて分析した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SWNT-ポリマー複合材料の作製において重要な配向性に対し,その配向成長のメカニズムについてのモデルを提案した.さらにそのモデルに基づき,合成条件を変化させることで,配向性・配向密度の向上に成功した.現段階での配向密度は世界最高レベルでは言えないが,複合材料に用いるには十分な高密度まで高めることができたと考える. SWNT-ポリマー複合材料化においては,PDMSを用いることでその配向性が保存されること,さらにその配向性をラマン散乱分光法による分析し,複合材料化前後でほとんど変わらないことも分かった.この配向性の保存は非常に興味深い結果であり,今後の複合材料化への重要な技術を得ることが出来たと言える. また,これまでに得られた複合材料化技術に基づいた分子ガラスを用いた熱リソグラフィーは高品質な半導体・金属SWNT分離法となる可能性があり,想定以上の進展があったと考える.
|
今後の研究の推進方策 |
より高密度の水平配向SWNT合成を目指すと同時に,ポリマーとの複合材料化した際のSWNT物性の分析を進める.特にポリマー-SWNT間の相互作用をラマン散乱分光法や光吸収分光法,近赤外蛍光発光分光法など分光測定を用いて検討を行う.測定や複合化の際,周辺雰囲気からの影響があると考えられる.そのため,より詳細な分析や複合材料化を進めるために,環境制御用チャンバーを作製する.これらの分析・解析を行うと同時に,ポリマーの選定・吟味を行い,目的に応じたSWNT-ポリマー複合材料作製技術の向上を目指す. また,SWNT-ポリマー複合材料の機械的特性(機械的強度や熱伝導率)や電気伝導特性などの物性値の計測も試みていく.
|
次年度の研究費の使用計画 |
予定通り,SWNT―ポリマー複合材料の分析・解析に必要な光学素子,環境制御用チャンバー作製およびそれに伴う真空関連部品(真空配管,ポンプ,圧力計など)に研究費を支出する予定である.また,ポリマーの選定を行うと同時に,より多種多様なポリマー種の吟味も進める.これまでに得られた研究成果を国内外の学会において発表するための旅費・学会参加費等への支出を行う. また,平成24年度において物品費での支出が予定より少なかった.これは,配向SWNTの合成および複合材料化において,予想以上の順調な進展があったためであり,平成25年度においては,作製した複合材料の分析(特に,プロセスおよび分析時の環境や雰囲気のより高度な制御が可能になるようなチャンバー等真空装置関連)に対して重点的に研究費を使用する計画である.
|