研究概要 |
2次元熱ダイオードの実現に向けて、MEMS技術によりSi窒化膜のみを残した架橋状態とした基板の上に組成傾斜薄膜を作製し、可能な限り基板の影響を小さくすることにより薄膜の面内熱伝導率を正確に計測することを検討した。窒化膜の厚さは100 nm以下であり、サンプルの膜厚500 nm~1 μmに対して熱的に十分薄いため薄膜の熱伝導率計測にはほとんど影響を及ぼさない。また、Si酸化膜よりも窒化膜のほうが強度に優れており架橋構造形成に適している。前年度までの研究において、Si酸化膜付きのウェハーのMEMS加工によりセンサーおよびヒーターとして使用できるPt細線の架橋構造を作製した。Pt薄膜は厚さ50 nm、幅10 μmの細線を基本とし、フォトリソグラフィーとリフトオフ法によって作製できる。これは面内の2方向の熱伝導率計測を容易に行える構造となっている。 熱ダイオードを構成する組成傾斜薄膜の作製には、研究代表者らが考案した重力場支援レーザーアブレーション法(GAPLA)を用いた。約5,000 Gの高重力場を高速回転によって発生し、レーザーアブレーションによる製膜と組み合わせて組成傾斜薄膜を作製した。その材料の質量勾配による熱整流作用を調査するのが本研究の目的であった。最終年度には熱整流効果の発現が予測される軽い元素と重い元素の組み合わせとして、B-Biの組成傾斜薄膜の作製実験を行った。重い元素であるBiリッチ側と、より軽いBリッチ側が生成され、理論的にはB → Biよりも、Bi → Bへの熱伝導のほうが大きくなることが予想されたが、結果としては軽元素であるBの薄膜への残留量の制御が困難であり、熱整流の実現には至っていない。しかしながら、本研究の過程において得られたSi-Fe系をはじめとする種々の組成傾斜薄膜に関する知見は、今後の研究に大いに役立つものとなった。
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